ぴちゃん、と響く水の音は、マッシュが湯船の湯を掬って軽く持ち上げた手のひらから落ちた水滴によるもの。 右手は湯と戯れて、もう片方の左腕はマッシュの胸を背凭れにして身体を預けているエドガーの胸を緩く抱いている。 湯気で靄がかかったような浴室内はその水音以外静かなもので、少し前までマッシュと穏やかに会話をしていたエドガーは今や規則的な呼吸に合わせて胸を上下させていた。 マッシュが立てた水の音にも反応はない。やはり眠ってしまったのかとマッシュは小さく溜息を漏らし、艶やかなエドガーの濡れ髪に頬を寄せて腕の中の身体を優しく抱き締める。 身体を重ねるようになってから、エドガーに負担を掛けてしまっている気がする。 どうしても行為は夜に行うため、結ばれる前より睡眠時間が減るのは当然で、今夜のように事後に二人でつい長風呂などしてしまうとあっという間に時計の針が進む。 昼間も多忙な生活を送っているエドガーを、夜こそゆっくり休ませてやるべきだと思ってはいるのだが。 「……ホントは一日中だって抱いてたい」 ぼそりと呟いた声にエドガーの身体が揺れることはなかった。眠りの深さにやはり疲れているのだろうとマッシュは苦笑いを浮かべる。 「ごめんな、無理させて」 首筋に顔を埋めて小声で囁いた時、 「大丈夫だ」 ないと思っていた返事があった。 もしや起きていたのだろうか? 慌てて水面を揺らしながらマッシュが顔を上げると、エドガーは身体を動かさずにぽつんと零す。 「お前に抱かれるのは、気持ちが、良い……」 ぼんやりした声で囁くように告げてから、再びエドガーは黙りこくる。 すう、すうと響く呼吸音に拍子抜けしたマッシュは、そうっと首を伸ばしてエドガーの顔を覗き込んだ。 閉じた瞼を横から眺めると、長い睫毛がよく目立つ。微かに唇に隙間は見えるが、そこから漏れているのは寝息としか思えない。 寝言かと納得して、マッシュは思わず眉尻を下げて微笑んだ。 優しく髪を掻き分けて現れたうなじにキスを落とし、横抱きに抱いた身体を大切に包んで立ち上がる。エドガーの白い肌を湯が伝い、臍の窪みに溜まったのを見て小さく笑ったマッシュは、そのまま眠る兄を抱えて湯船の縁を跨いだ。 ──夢の中でも一緒にいさせてくれてありがとう。 囁きを乗せた唇で閉じた瞼に触れたマッシュは、エドガーが眠る場所をゆったりとしたベッドに移すべくバスルームを後にした。 |