11/11の、サムライの日(カイエンの名前だけ)、
折り紙の日、美しい睫毛の日、睫毛美人の日、
おそろいの日、恋人たちの日によせて
(また詰め込めるだけ詰め込んだ)


 談話室のソファに一人陣取り眉間に皺を寄せて首を傾げながら、手の中の紙切れ相手に奮闘すること早数十分。
 卓上には正方形に切られた白い紙が数枚、無造作に広がっている。
 渋い表情で小さく唸っていたマッシュは、肩に優しく手を置かれて驚きに振り返った。
「兄貴」
「どうした、唸り声なんかあげて」
 エドガーの穏やかな目と声にすぐにホッとし、苦笑したマッシュは指先に摘んだ紙をエドガーに差し出した。
 折り目がたくさんついたそれは紙切れというより何かを象っているようで、ソファの背凭れに肘を置いて覗き込むように身を屈めたエドガーは、唇は微笑んだまま首を傾げる。
「前、カイエンに教えてもらったやつ、何だっけ、えっと……」
「ああ、オリガミか」
 エドガーの返答にマッシュの顔がぱっと輝き、それ! と答えてから改めて手の中の紙切れだったものを見下ろした。
「途中から分かんなくなっちまってさ。あの時しっかり覚えたと思ったのになあ」
「あの鳥の折り方だな」
「そう、ツルとか言う」
「どれ、俺に貸してみろ」
 ソファの背面を回って隣に腰を下ろしたエドガーは、マッシュの手から折り途中の紙を取り上げ様々な角度から見回してすでに折ってある箇所を一度広げたりしつつ、小刻みに数回頷いて新しい折り目をつけ始めた。
「確か、こうだ。こっちを先に折って……」
「うんうん」
「それから、ひっくり返す……」
「ああ、そうか……」
 説明しながら器用に折っていくエドガーの指先をじっと眺めていたマッシュは、ふとエドガーの前髪が額に触れた擽ったさで目線を上げる。
 思った以上に間近にあった兄の顔を見て、驚きつつも表情や声には出さないよう努めたマッシュは、至近距離で軽く伏せられたエドガーの瞼の先で揺れる睫毛をじっと見つめた。
 長く揃った睫毛が瞬きの度に微かに震える。
 その下でゆらゆら左右に移ろう青い眼に被さる金色の睫毛に見惚れて、マッシュは自然と口元を綻ばせた。
「最後に嘴を折って完成だ。……マッシュ?」
 反応が薄いマッシュに焦れたのか、折り紙から隣のマッシュに視線を移したエドガーもまた、あまりに近くにあるマッシュの顔に驚いて目を見開いた。
 思いがけず息が触れる近さで見つめ合って、お互い照れ臭さで小さく笑った唇を軽く重ね、完成間近の折り紙に二人で触れる。
「流石兄貴……ちゃんと覚えてるんだな……」
「お前も、途中までは合っていたぞ。上下を逆さにしたからおかしくなったんだ……」
 吐息混じりに囁き、手の中の折り鶴はおまけの扱いで指を絡め合った二人は、くすくすと忍び笑いを漏らしてそれぞれ寄せた頭をくっつけた。
「ちゃんと説明、聞いてたのか?」
「いや……睫毛綺麗だなあって、見てた」
「仕方がない奴だな……教えてやるからもう一羽折ってみろ」
「……そうだな、一羽じゃ可哀想だ。お揃いにしてあげないとな……俺たちみたいに」
 また小さな笑いで肩を揺らし、音を立てて唇を重ねた二人は、不必要に身体をぴったりくっつけて新しい紙を折り始めた。


「あら、談話室使えないの?」
 厚みのある本を片手に訪れたセリスが怪訝そうに眉を顰める前で、ドアを背凭れに苦々しい表情で突っ立っているセッツァーが深く長い溜息をついた。
「すまんな……少々、取り込み中で」
「? どういう意味?」
「読書なら部屋か甲板に行ってくれ。今日は天気がいいからな……」
「……よく分からないけど、……分かったわ」
 納得していない顔のままで頷いたセリスは、軽く肩を竦めて踵を返す。
 その背を見送ったセッツァーは、もう一度大きな溜息を漏らし、こめかみに青筋を立てて談話室のドアを乱暴にノックした。
「お前ら部屋でやれ!!」
 その数分後、若干襟元を乱した荒い呼吸のエドガーとマッシュが、赤い顔でそそくさと談話室を出て行った。

(2018.11.11)