気に入っていた茶器だから、とかつて使っていた修練小屋に忘れ物取りに向かうマッシュに同行を申し出た。 修練小屋の周辺は草が伸び放題だったが、中は旅人が時折使った形跡があるものの荒れているわけでは無く、マッシュの愛用品もそのまま形を変えずに戸棚に収まっていた。 マッシュは小屋の中を見渡し、いつもここでこうして、ああして、と過去の暮らしぶりを教えてくれた。自分の知らないマッシュの生活を想像して幽かな切なさが胸を覆うが、顔に出さないように笑顔で話を聞いていた。 おもむろにマッシュが火を起こし、お茶でも飲もうと誘い出した。手慣れた様子で準備を進める姿は城を出る前のマッシュとは明らかに違い、彼が自分の庇護から離れて大人として生きてきたことに喜びに勝る身勝手な寂しさを感じていた時、差し出されたカップを手にする自分を見て何故だかマッシュが感慨深げに目を細めている。 ──当たり前に毎日こうしてお茶を淹れていたけど、この場所に兄貴がいるだけで物凄く特別になるんだなって。夢見てるみたいだ── 僅かに目を潤ませたマッシュに苦味を含んだ微笑を見せ、口に含んだ茶は優しい味がした。 |