「エドガー! マッシュ!」 船着場で出迎えに現れたティナは目を輝かせ、紅潮した頬に冷えた風が当たるのも気に留めず走り寄って来た。笑顔で応えたエドガーとマッシュは、飛び込んで来たティナの両手をそれぞれ取って再会を喜び合う。 「やあ、妖精の住処に流れ着いたのかと思ったよ。見違えるように美しくなって……久し振りだティナ、元気そうで良かった」 「何年ぶりかもう数えられなくなってしまったわ。マッシュは毎年会いに来てくれるのに、エドガーはちっとも来てくれないんだもの」 「すまなかった、私も何度国を抜け出して忍んで来ようかと思ったものだよ」 もうすぐ二桁に近づく年数を会わずにいた旧友同士のやり取りを、マッシュが穏やかに微笑みながら傍で見守る。そして、何度も希望しながら実現させられなかったエドガー直々のモブリズ訪問が叶った喜びを噛み締めて、初めてモブリズに派遣された時から随分と発展した街並みに目を細めた。 「何と素晴らしい……まるで違う都市に訪れたようだ。あの荒地がよくぞここまで……」 エドガーも感慨深げに埠頭から見渡せる景色に目を瞠らせ、興奮気味にマッシュを振り返った。マッシュもエドガーに誇らしげな笑みを見せ、頷く。 「フィガロのお陰よ。マッシュや兵士さんたちが本当に力を尽くしてくれたから……、……?」 目線を交わす二人の前で、ティナがふと言葉を止める。その不自然な間に気づかずにいたエドガーとマッシュが改めてティナに向き合った時、ティナは再会の瞬間にも勝るほどに瞳に光を散りばめて、自身の手を握り合わせて喜びで肩を震わせていた。 どうかしたかとエドガーが声をかける前に、はち切れそうに口を開いたティナが高らかな声で言い放った。 「マッシュ、エドガーに想いを伝えたのね!?」 エドガーは目を剥き、マッシュは一瞬で首まで赤く染まってティナに制止の手を向ける。二人の様相に構わず、ティナはうっとりと夢見心地に手の甲に頬を寄せた。 「一目見てすぐ分かったわ! ああ、良かった……! 私、きっと想いが通じる日が来るって信じてたの。二人ともとても幸せそう……」 「ティ、ティナ、声がデカいよ、なあ」 「……どういうことか説明してもらえるかな……」 離れた位置にいる兵達を気にしながら、マッシュは歯切れ悪くこれまでの経過を説明する。すなわち、ティナは随分前からマッシュのエドガーへの気持ちを知っていて応援していたこと。赤い顔を気まずく顰めるマッシュと、ニコニコと悪びれずに二人を見つめるティナの笑顔を交互に見たエドガーは、ぽかんと開いた半開きの口のまま額に手を当てた。 「……何てこった……俺は何て無意味なことを……」 「え? 何だって?」 小声の呟きを聞き返すマッシュを無視して、エドガーはマッシュに遅れて朱に染まった頬を隠すように今度は顔の下半分を手で覆う。 よそよそしく向かい合う二人をよそに、ティナは丘の上を指差して風に髪を靡かせた。 「ケーキを焼いてあるの。子供たちもフィガロの王様に会うのを楽しみにしていたのよ。さあ、ゆっくりして行って」 一度ちらりとお互いを見てから、軽やかに踵を鳴らすティナに続いたエドガーとマッシュは、ティナに聞こえない程度の声でボソボソと囁き合った。 「……俺はそんなに顔に出ているか……?」 「ティナが鋭過ぎるんだよ。俺だって自分から話した訳じゃなかったんだぜ」 「お前、ティナにどんな話してたんだ」 「それはその……、もういいだろ、ほら、追いてかれるぞ!」 歩調を早めるどさくさに紛れてマッシュがエドガーの指を握る。驚いて顔を上げたエドガーの視界に、先程から真っ赤に熟れっぱなしのマッシュの耳が映って、照れ臭さで思わず顔が綻んだ。 |