お互いあと一枚シャツを脱げは素肌という状態で、ベッドの上で正座して向かい合ったまま十数分は時が過ぎた。
 もう取り繕えないほどに顔は赤く染まり、気まずげに唇はへの字を描いている。エドガーも、マッシュも、同じ顔を突き合わせて睨み合い、拮抗が崩れる瞬間を待っていた。
 痺れを切らしたのはエドガーだった。
「……よし。じゃあせーので脱ごう」
「わ、分かった」
 マッシュもいかにも覚悟を決めたように頷くが、元々軽装のマッシュに比べて着込んでいた量の多かったエドガーは何倍も羞恥を感じながらここまで来たのだ。同じだけの決意と思ってくれるなと心の中で毒づきながら、マッシュと目配せをして同時にシャツの裾に手をかけ、せーの、でたくし上げた。
 ……のはエドガーだけで、マッシュは手をかけたままエドガーの肌を凝視して動かない。カッと首まで真っ赤になったエドガーが慌てて裾を下ろし、マッシュに掴みかかった。
「お前、狡いぞ!」
「だ、だって、大体こういう時兄貴が引っ掛けるから」
「いや今の感じはそういうのじゃなかったろ! お前俺がどれだけ勇気を出したと……!」
「ごめん、ほんっとにごめん」
 兄を怒らせたことを実感したマッシュが、赤らんでいた顔を若干青ざめさせて平謝りする。エドガーはマッシュから手を離し、体をガードするように腕組みした。
「……お前、本当にヤる気、あるのか」
「あります」
「……したいのか」
「したいです」
 真顔で正直に答えるマッシュの様子に不貞腐れたように口を尖らせながらも、咳払いをひとつしたエドガーは再び頬を染め、ちらりと横目でマッシュを見た。
「じゃ、じゃあ仕切り直しするぞ」
「う、うん」
 そろそろと互いに手を伸ばして首に絡め合い、口付けを交わそうと頭を傾けて近づけた時、気が急いていたのもあったためか、つい勢い余って前歯と前歯をガツンと打ち付けた。
 口を押さえて二人は悶絶し、痛みが引くまでしばしベッドに転がり合う。
 なかなか甘い夜は訪れてはくれなかった。

(2017.09.12)