見張り塔での花火鑑賞を終え、すっかり冷えた身体をエドガーの私室に備えられた暖炉の前で温めながら、エドガーとマッシュは新年の祝いにグラスを傾けていた。 城内では帰る故郷の無い非番の兵士たちが大騒ぎしているだろう。さぞや賑やかだろうなと笑いながら、静かな部屋で二人で飲む酒は味わい深かった。 ふと会話が途切れたタイミングでおもむろにマッシュがエドガーの肩へと腕を回す。おや、とエドガーが眉を持ち上げたのと、マッシュがエドガーの手からグラスを取り上げたのとはほぼ同時だった。 グラスをテーブルに置いたマッシュはその手でエドガーの顎に触れる。ちゅ、と小さな音を立てて降ってきたキスに目を閉じたエドガーは、瞼を開いてからやや意地悪く微笑んだ。 「子供たちがぐずったら遠慮なく呼びに来い、なんて言ってなかったか?」 「あの調子なら朝までグッスリだろ。きっと大丈夫だよ……」 甘ったれた眼差しの奥にちろちろと燃える情欲の炎を見て取ったエドガーは、返事をしない代わりに艶然と笑ってマッシュの顎を覆う伸びかけた無精髭を撫でた。 マッシュは大きく喉を鳴らし、エドガーの身体を抱き寄せる。仰け反った白い首に唇を当ててやんわりと歯を立て、そのまま床に無抵抗の身体を倒した、その時。 コンコン、と控え目にドアをノックする音が響いた。 マッシュはギョッとして振り返った。焦ってドアとエドガーを交互に見るマッシュの下で、エドガーが苦笑しながら「起きている」と答える。エドガーに非難するような哀しげな眼差しを向けるマッシュの背後、ドアの外から申し訳なさそうな若い兵士の声が聞こえて来た。 「エドガー様、マッシュ様……、申し訳ありません、男の子が起きてしまって、寝かしつけようとしたのですが、マッシュ様でないと嫌だと駄々をこねて……」 マッシュは苦虫を噛み潰したような表情で溜息をついた。代わりにエドガーが笑いながら「今行く」と返し、マッシュを肘で小突く。 「ホラ、お呼びだぞ。きっとショーンだろう、お前に一番懐いていた」 「……ちえ、分かったよ」 子供のように唇を尖らせて身を起こしたマッシュの腕をぐいと掴み、驚いて振り向いたマッシュの尖った唇に小さくキスをしたエドガーは、艶やかな笑みを唇に乗せてウィンクした。 「早く戻って来いよ。でないと、寝付きのいい俺は待ちくたびれて寝ちまうからな」 マッシュは眉を垂らし、もう一度分かったよおと不貞腐れた口調で呟いて、お返しのキスをしてから軽やかに立ち上がって身を翻す。 「おっし、秒で寝かしつけてやる!」 気合十分に駆けて行ったマッシュを寝そべったまま見送ったエドガーは、今年も楽しい年になりそうだと北叟笑んだ。 |