「あれは?」 「あれは……りんご!」 「じゃあ、あっちの塊は?」 「うーん……おにぎり!」 うららかな陽気に誘われるように飛空艇の甲板に出てきたエドガーは、長閑な陽射しの下で寝転がりながら何やら楽しげに話しているマッシュとガウを見つけて頬を緩めた。 会話の脈絡のなさに疑問符を浮かべて近づきつつ、エドガーは彼らが指差している方向を見上げる。真っ青な空に解した綿のような雲が様々な形であちこちに浮かんでいた。 「あの大きな丸いやつは……」 「ピザだ!」 「あそこの長四角……」 「ほしにく!」 「食い物ばっかりだな」 マッシュの苦笑に合わせてエドガーも吹き出し、その音で寝転んでいた二人が顔を向けた。 「兄貴」 「楽しそうだな。何の話をしてるんだい」 「くも、みんなうまそうだ!」 手足をバタバタさせてはしゃぐガウを宥めながら、マッシュが肘をついて身体を起こす。ガウの隣にしゃがんだエドガーと同じ目線で、改めて雲を指差した。 「日向ぼっこしてたらさ、雲がいろんな形に見えるなって話になって。ガウと何に見えるか考えてたんだ」 「へえ、なかなかロマンチックな遊びじゃないか」 「全然ロマンチックじゃねえよ、ガウのやつ食い物にしか見えてねえ」 はははと笑ったエドガーの頭上をふいにガウが指差し、「バナナ!」と叫ぶ。振り向いたエドガーの目に、細長く伸びた雲が映った。 「あれ、バナナだ! ガウ、はらへったぞ!」 「バナナかあ、なるほどなあ。あんなデカいバナナ食い切れねえな」 「ガウならたべるぞ! たべたい!」 二人の声を背に、確かにバナナ的な形状だなと雲を見上げたエドガーは、その縦に伸びた雲の角度と先端の形に見覚えがあって顎に手を添える。 ──どちらかと言うと別なバナナに見える。 あのくびれ加減といい太さといい、マッシュの……に……よく似ているような……、あれでもう少し長さがあれば……、いや、太さも若干足りないか。 「バナナたべたい、たべたい!」 「昨日市場で買って来てたな。食堂にあるぞ」 そういえば最近あっちのバナナは食べていない……このところ連戦続きで夜も早く休んでいたから……今日は久し振りに留守番組でのんびりできているし、なんなら真昼の今からでも──…… 「兄貴? 何ブツブツ言ってるんだ?」 背中に手を置かれてぴょんと飛び上がったエドガーは、顔を戻した先にマッシュの姿しか見えないことに気づき、火照りを冷ますついでにやや大袈裟に辺りを見渡す。 「ガウは?」 「バナナ食いたいって食堂まで走って行ったよ」 邪な妄想をしていた身としては清らかな眼差しのガウと目を合わせずに済んでホッとしたが、目の前にいる相手がまさに妄想の主役張本人とあれば表情の変化も隠し切れず。 不思議そうに首を傾げるマッシュの前で、俺もバナナが食いたいと言うべきか否か思案に暮れるエドガーだった。 |