生徒玄関にて下駄箱を覗くなり、マッシュの横顔が困ったように歪む。目敏く気づいたエドガーが肩をぐいと寄せてマッシュを押し退け、上靴の上に置かれていた手紙を摘んで裏と表を交互に見た。 「今時古風だな」 「な、何の手紙かまだ分かんないだろ」 棘のあるエドガーの言葉に言い返したマッシュをチラリと見て、肩を竦めながらエドガーは手紙をマッシュに差し出す。何かしら受け取ったものはいつもマッシュが責任持って対応しているので、エドガーとしても文句は言わない。が、嫉妬心が綺麗さっぱり消える訳ではなく。 「……紙飛行機にでもして飛ばしてやろうか」 ボソリと呟いた内容はマッシュの耳には届かなかったようで、少し不思議そうに首を傾げながらもそそくさと手紙を鞄に仕舞う様子が小憎らしい。 受け取った以上、誠実に返事を書くのがマッシュのモットーなのは理解している。その返事が全て断りの内容だということも重々承知している。 それでも面白くない気分にはなる。マッシュがモテるのを知っているから尚更。学校中の女生徒がマッシュを想っているというのは言い過ぎだが、相当な数のライバルがいると思うと不安にならないはずがない。 その中で自分が一番マッシュが好きだと自負しているが、そんなこと恥ずかしくて言えやしない。しかし言わなくても分かってくれているだろうという希望的観測に頼っていては、いつか後悔することになりはしないかと危惧しているのも事実で。 上靴を履き替えながら、ふと思いついたエドガーは胸に垂れて来た金髪の束を背中に払い除けてマッシュに言った。 「マッシュ、ちょっとした心理テストなんだが」 「何だよ、急に」 「貴方は友人と紙飛行機を作り、一斉に飛ばします。さて、遠くまで飛んだのは何機でしょう?」 「……それが心理テスト?」 「そう」 マッシュはエドガーの隣を歩きながら考え込み、小さく笑って頷くと、手振りで紙飛行機を飛ばすフリをしてみせた。 「まず何十人もで一斉に飛ばすだろ。そんでみんなめちゃくちゃ飛ぶ!」 「……ほお……」 エドガーの笑顔が引き攣る。目が据わり、思わず浮かんでしまった眉間の皺をそっと押さえた時、マッシュが楽しげに続きを話し出した。 「どんどん飛ぶんだけど、だんだん落ちてって、ほとんど途中で落ちちゃうんだ。でもひとつだけ真っ直ぐぐんぐん飛んでって、それが兄貴が折ったやつ!」 一転、目を見開いたエドガーの頬がぽっと朱に染まる。 「兄貴が折ったやつだけずーっとずーっと遠くまで、いつまでも何処までもめちゃくちゃ飛んで……」 「わ、分かった、もういい」 マッシュから顔を背けたエドガーは、教室の戸口でマッシュを追いやるように手をひらひらと振った。 「着いたぞ、じゃあな」 「心理テストの結果は?」 「あ、後でな。ほら、予鈴鳴るぞ」 「やべ、じゃあまたお昼になー!」 手を振って教室に入って行ったマッシュを見送り、両手で火照った頬を覆ったエドガーもそそくさと隣の教室へ急ぐ。 口元は緩んでいた。 『貴方は友人たちと紙飛行機を作って一斉に飛ばします。遠くまで飛んだのは何機でしょうか?』 ──遠くまで飛んだ紙飛行機の数は、貴方のことを好きな人の数。 |