「へえ、モチーフは不思議の国のアリスなのか」 マッシュが大きなビニール袋を抱えて帰って来たのはつい先程。その袋の中身を取り出して数を数えている様を後ろから覗き込み、エドガーが呟いた。 「うん、アリス風カフェだって」 マッシュが数えているのは百円均一ショップで大量に仕入れて来た白ウサギの耳カチューシャ。ひとつを手に取り、頭に装着する様を見てエドガーが吹き出す。 「似合うぞ」 「へへ。男はこれつけてウェイターするんだよ」 「そりゃ楽しみだな」 他の男子はともかく、長身のマッシュが長いウサギの耳をつけて接客する様を想像してエドガーは複雑に笑った。──これはきっと女子が集まるに違いない。 ただ今学校祭の準備真っ最中、マッシュはクラスで行うカフェのために帰宅途中に小道具を調達する係となっていた。領収書の金額を確認し、数えたお釣りを茶封筒に入れたマッシュはウサギの耳を外して袋にしまう。 「女子は水色のワンピースにエプロンつけて、黒いリボン頭に結ぶんだって」 「アリスだな。可愛いじゃないか」 「デザイン画見せてもらったけど可愛かったよ。でもあれ、兄貴の方が似合いそ……、い、いやなんでもない」 笑顔をふいに強張らせてわざとらしく誤魔化したマッシュをキョトンと見たエドガーは、次いで少しだけ意地悪げに口角を上げた。 「誰の方が似合うって?」 「ええと、その」 「……、そうだ、お前の水色のシャツ貸せ。おふざけで買った白いエプロンあったよな……、黒いリボンは部屋にあるし……」 企み顔でマッシュに指示を出し、エドガーは集めた衣類を抱えて部屋に引っ込む。何故か正座でソワソワと兄が戻るのを待っていたマッシュは、出て来たエドガーの格好を見て目を剥いた。 マッシュの水色のシャツを羽織って下は素足、フリルのついたジョークグッズの白エプロンをつけて、解いた金色の髪に映える頭の天辺の黒いリボン。 やけにドヤ顔でポーズを取るエドガーをマッシュは正座のままぽかんと見上げていた。 「ふふん、どうだ? アリス風、なーんて……」 「……兄貴」 膝の上で拳を握るマッシュの低い呼びかけに、流石に苦しすぎたかとエドガーが照れ混じりの苦笑で誤魔化そうとした時だった。 「……写メ撮らせて」 「……」 三十分後── 「次、兄貴、座って!」 「ま、まだ撮るのか……? なあ、この写真何に使……」 「目線こっち!」 「お前ちょっと目が怖いぞ……?」 いろんな意味で朝まで盛り上がった。 |