マエド365題
「13.新製品」
(使用元:TOY様 http://toy.ohuda.com/ ご自由にどうぞ365題)

※現パロDK双子です(うちの現パロは全部同設定です)


「あっ兄貴、帰りコンビニ寄っていい?」
 下駄箱に上靴を入れながらマッシュを見上げたエドガーが頷く。
「何か買うのか?」
「この前言ってたコンビニ限定の新製品チョコの発売日!」
「ああ……、じゃ、付き合ってやるか」
 言葉の割には実に嬉しそうに頬を緩めたエドガーを横目で確認し、マッシュも密かに微笑んだ。
 兄が存外甘いものが好きなことはよく知っている。
 今回のチョコレートだってエドガーのために発売日をチェックし、買いに行くのもエドガーのため。
 ついでに食べる風を装うエドガーの笑顔を思い浮かべ、マッシュは浮き浮きと下校途中のコンビニへ急いだ。

「おっと、今月号もう出てたか」
 コンビニに入るなり、すぐ近くの雑誌棚に引っかかったエドガーはパソコン情報誌に手を伸ばす。パラパラとめくるエドガーの背中へ、「チョコ見てくる」とマッシュは声をかけた。
 エドガーの返事を聞き届けて、それではと菓子が並ぶ棚まで行く途中、ふと何か気を引かれるものが視界を掠めた。
 思わず振り返ったマッシュは、薬やトラベルサイズの化粧品が並ぶその一番下段、控えめに鎮座しているコンドームを見つけて目が釘付けになる。
(XL……! 普段コンビニにこのサイズ置いてないのに……!)
 シンプルなパッケージが多い中、XLサイズの箱だけに可愛らしい馬のイラストが描かれていた。ネットで見覚えのあるキャラクターだった。
 添えられたポップ広告から巷で人気のキャラクターとのコラボ製品であることを理解し、話題性からコンビニに置かれた経緯も納得した。実際人気があるのだろう、残っているのは最後の一箱。
 新発売、と書かれた箱は一見コンドームとは、しかもXLサイズとは分からず、これならレジに持って行ってもあまり目立たないかもしれない。
 マッシュはそうっと目線だけを動かして同じ並びの雑誌棚付近を伺う。エドガーは先程と同様雑誌に目を通している最中で、マッシュの動きには気を留めていない。
 マッシュはコンドームに手を伸ばすか迷った。実際家には今在庫がない。つい一週間前、休みだからと羽目を外しすぎて数には余裕があったはずのコンドームを使い果たしてしまった。
 しかし盛り上がりすぎて、翌日は丸一日エドガーがベッドから起き上がれなくなった。それですっかり参ったエドガーが、普段はなくなったら即ネット通販で注文するコンドームをなかなか買おうとしないのだ。
 コンドームがない、すなわちお預け状態である。
 周囲のコンビニには普通サイズしか取り扱いがなく、無理に付けると痛みを生じる。よく行くスーパーではレジの女性たちに完全に顔を覚えられており買いにくい。サイズが豊富にあるドラックストアは滅多に行かない場所にあり、出向くと言えば間違いなくエドガーに詮索されるだろう。
 そんな訳で、エドガーの気が向くまでコンドームの購入を諦めていたマッシュにとって、まさしく救世主がここにあった。
 買ってしまえばこちらのもの──しかしまた兄が機嫌を損ねる可能性もある──だが今買わなければ売れてしまうかもしれない、サイズ的に再入荷される確率は低いのではないか──葛藤を続けるマッシュの視界の端に、雑誌を閉じたエドガーの姿が映った。
 マズイ、こっちに来る。最早一刻の猶予もない。マッシュは発作的にコンドームの箱を掴んでいた。ちゃっかりカモフラージュの絆創膏と整髪剤も一緒に。
 エドガーがレジに着くより早く、先に会計を済ませなければ。店内で許される最速の早歩きでレジに向かったマッシュは、鬼気迫る表情でレジに品物を叩きつける。恐れ慄くバイトの青年を眼力で脅し、彼が震える指でコンドームをレジ袋に入れる様をハラハラと見守ったマッシュは、袋を渡された瞬間ガッツポーズをした。
「何してるんだ」
 背後から聞こえたエドガーの声にマッシュは文字通り飛び上がる。その反応にエドガーは眉を訝しげに顰めたが、首を傾げるに留めてレジへと雑誌を置いた。
「もう会計終わったのか? これ払うまでちょっと待ってくれ」
「あ、う、うん」
 服の隙間から風を通して全身から吹き出る汗を誤魔化しながら、マッシュは作り笑いで頷く。
 疑うようなエドガーの眼差しに晒されながら、マッシュは見えないところでもう一度ガッツポーズをした。


「これチョコじゃないだろ!!」
 帰宅して早々にコンドームの箱を顔に投げつけられたマッシュは、エドガーが籠城した部屋の前で暗くなるまで謝り続けた。

(2020.01.19)