「兄貴、なんだこれ」 風呂用の椅子に腰掛け膝に肘を乗せてぼんやり頬杖をついていたエドガーは、後ろから聞こえるマッシュの声に、んー、と気の無い返事をした。せっせと兄の背中を流すマッシュが、脇腹付近の古い傷跡に恐々触れている。ちらっと目線を向けたエドガーは、ああ、と思い出したように頷いた。 「即位した次の年かな。暗殺されかかってな」 「あ、暗殺!? そんなことあったのかよ……って、この肩の傷も?」 「あー、そっちはいつだったかな、コーリンゲンの紛争かな……」 「……じゃあ、この腰の……」 くるりと振り向いたエドガーはわざとらしくマッシュの前で溜息をつき、狼狽えるマッシュの肩を掴んで向こうを向けと背中を向けさせた。 「お前は無粋だね、傷痕なんかより色気のあるものを数えようじゃないか。どれ、お前の背中のホクロはいくつあるかな……」 「……う、あにき、くすぐったい……」 「ここにも、……ああここにもひとつ。ここも」 際どいところをちょんちょんと指先で突かれ、ぴくぴくと肩を揺らすマッシュを見てエドガーは北叟笑み、のぼせるなよ、と耳元で囁いた。 |