マエド365題
「15-2.嫉妬」
(使用元:TOY様 http://toy.ohuda.com/ ご自由にどうぞ365題)

※14.何で謝るの?、15−1.嫉妬の続きになっています


 大きく開かせた両脚の間に腰を打ち付ける。
「待っ、あっ、激し……っ」
 汗で濡れた肌がぶつかる音が喘ぎ声に混じり、酷く凶暴な気分になって抱えた脚を膝から折り曲げて押し潰した。頭上に拳を握った腕を掲げ、腹の下で悶えるエドガーを見下ろしながら、熟れた蕾を無理矢理咲かせるかのように突き、貫く。
「アッ、マッシュ、アッ、アッ」
 荒い息と共に漏れる掠れた声には余裕が消えて久しく、恐らくは無意識だろう腰の痙攣にも似た動きがエドガーに絶頂が近いことを示していた。
 普段ならこんな性急な抱き方はしない。昼間の一件が未だしこりとして胸に残っている自分に嫌悪しながらも、マッシュは乱暴な動きを止められなかった。
 ──くだらない嫉妬だって分かってる。
 十年ぶりにあった兄にはあらゆる顔があった。王の顔、戦士の顔、女性を敬う騎士の顔、そしてマッシュの兄であり恋人の顔。
 その他にもう一つ、気心の知れた仲間に見せる年相応の青年の顔がある。
 兄弟間のやり取りとは違う、友人同士の砕けた雰囲気はマッシュが相手では表れないものだった。
 産まれてから王子として育てられ、城から離れられずに王の役目を全うするエドガーにとって、対等な立場の友人とはこの旅で初めて得られた特別な存在なのかもしれない。しかし、エドガーがセッツァーやロックに見せる新たな表情は時にマッシュを酷く焦らせ、苛立たせた。
 エドガーは悪くない。勿論彼らも悪くない。彼らはマッシュにとっても大切な仲間たちである。存在が憎い訳ではないのに、エドガーが絡むと無性に胸がざわめく。
 知らない顔を他の相手に見せないで欲しい。そんな
気を許した目をしないで欲しい。他の人間の前で屈託無く笑って欲しくない。独り占めして何処かに閉じ込めてしまいたくなる。
 その自分勝手な欲が暴走して、今こうして啜り泣きながら喘いでいるエドガーを無体に追い詰めている。何て子供染みた醜い嫉妬心だろうと奥歯を噛み締めても、苛立ちの矛先はエドガーに向かうばかりで。
「ああっ、うあっ……、あー……!」
 ビク、ビクとエドガーの全身が跳ねた。不自然に背を反らせて足先を硬直させた後、キュウと窄まった秘部の締め付けでマッシュも呻き、そのままエドガーの中に精を吐出する。
 くたりと脱力したエドガーはしばらく浅い呼吸をするだけで精一杯のようだった。エドガーに覆い被さったまま同じく荒い息を零していたマッシュは、やがてのろのろと身を起こしてエドガーを見下ろす。
 焦点の合わない薄眼であらぬ方向をぼんやり見ているエドガーの、汗で乱れて額に貼りついた前髪をそっと掻き上げた。金色の頭髪を撫でながら、マッシュは苦渋の眼差しで放心するエドガーを見つめ、悔いる。
 また理不尽に己の心の弱さをぶつけてしまった。こんな乱暴な抱き方をしたい訳ではないのに、本当は身体の隅々まで優しく愛してあげたいのに。
 汗が冷えると共に頭に昇った血も下がり、マッシュは居た堪れずにエドガーの身体を抱き締めた。首筋に顔を埋め、濡れた肌を守るように撫でていると、脱力していたエドガーの腕がゆるゆるとマッシュの背に回る。
 その温かい手のひらの感触に泣きたくなったマッシュは、エドガーの耳元でごめん、と囁いた。
「……何を、謝ってる……?」
 すっかり枯れた声でエドガーが尋ねて来た。マッシュはきつくエドガーを抱き締めながら、押し殺した声で答える。
「乱暴に、しちまった……、ごめん。身体、辛いよな……」
 ふと、マッシュの背を抱くエドガーの力が強まった。ドキッとマッシュの胸が疼いたのと、エドガーが小さく首を横に振って気恥ずかしそうに呟いたのはほとんど同時だった。
「お前、に、求められるのは、嬉しい」
 色気の混じる掠れた声でそんなことを言われて、マッシュはエドガーのあまりのいじらしさに堪え切れず、がばっと身を起こして乾いた唇に口付けた。摘むように唇を塞ぐと、エドガーも動きに応えてくれる。
「兄貴、……好き」
「……俺も」
 何度もキスを繰り返しながら、もっと器の大きな男になるためにはどんな修行が必要だろうかとマッシュは苦悩した。

(2020.01.21)