マエド365題
「18.手伝って」
(使用元:TOY様 http://toy.ohuda.com/ ご自由にどうぞ365題)


 静かな午後だった。
 一人部屋にいるマッシュは、ベッドに腰掛けて浅く短い呼吸を続けている。寛げた下衣から取り出したものを握り、上下に擦りながら何かをイメージするように目を閉じて、時折荒い息を詰まらせてはむず痒そうに腰を揺らした。
 飛空艇には今ほとんど人がいない。近くの山を調べに行った者、町へ買い物に出かけた者、子供達は傍の花畑で遊び、僅かに残ったマッシュを含む数人もめいめい好きに自室で過ごしている。
 朝昼ときっちり予定の鍛錬を終えて手持ち無沙汰になったマッシュは、ここしばらく戦闘に参加していない鬱憤を晴らすかの如く久方振りの自慰に耽っていた。
 訪ねて来る人間はいないだろうという思い込みがあったのは間違いない。とりわけ仲間内で誰より無遠慮に入り込んでくる兄が外出しているのだから。
 だからうっかりと鍵を掛け忘れただなんて、後から言い訳をしてもどうにもならないことなのだけれど。
「マッシュ、いるか──」
 ノックも事前の声かけもなく、いきなり扉を開いてからの呼びかけでは反応しようがない。
 マッシュは猛った自身のものを握ったまま、開け放たれた扉から現れたエドガーと目を合わせることになった。
「……すまん」
 戸口に立つエドガーがぽつりと零して、ようやくマッシュの停止していた思考が回り始める。慌てて前を手で隠したが、何をしていたかは一目瞭然だろう。
 エドガーはやや気まずそうに複雑な笑みを浮かべて、するりと室内に入り込んでくる。正直入って来て欲しくはなかったが、何か用事があるから訪ねて来たのだろうとマッシュは代わりの言葉を投げかけた。 
「セリスやティナの買い物に付き合うんじゃなかったのかよ」
「その予定だったが、ロックに荷物持ちの大役を取られてしまってな。まあ、お前が飛空艇に残ることは知っていたからいいかと思って来た訳だが……」
 エドガーはチラチラと意味ありげにマッシュを見ながら答える。マッシュは羞恥で赤く染まった顔を必死で顰め面にしてみせるが、迫力など微塵も感じてないだろうエドガーは意に介さず、戯けて肩を竦めた。
「まさか昼間から鍵も掛けずにこんな大胆なことを致しているとは」
「掛け忘れたんだよ! よ、用がないならもういいだろ!」
 あと少しで達するかと思われたものは、突然の来訪者のせいで若干萎んでしまっている。すっかり気が削がれてしまったマッシュが服の中に半勃ちになったものを仕舞おうとした時、カチャンと音が聞こえて顔を上げた。
 エドガーが目を伏せ、僅かに唇を尖らせた意味ありげな表情で鍵を掛けたところだった。
「兄貴……?」
「やめなくてもいいだろ」
 チラリとマッシュに横目を向けるエドガーの眼差しには含みがある。言葉の意味が分からずポカンとしていたマッシュの元へ、エドガーはすすすと流れるような動きで近づいて来た。
「え? どういう意味……」
「続けろよ」
 マッシュの隣に腰かけたエドガーは、しれっと股間を顎で指し示す。
「まだ途中だろ?」
「な、な、な」
 マッシュが顔を真っ赤にして唇を震わせる。エドガーは言葉の出ないマッシュの耳にそっと顔を寄せて囁いた。
「お前が一人でシてるところ、見たい」
 はっきり艶を帯びた掠れ声が、マッシュの耳から入って背中を撫で下ろして行く。ごくりと喉を鳴らしたが動くことができなかったマッシュに対して、エドガーは吐息混じりに声を注いだ。
「それとも……手伝ってやるか?」
 萎えかかっていたものが一気に硬度を増した。その変化はエドガーもすぐに気付くほどで、興味深く覗き込んでくるエドガーをマッシュはつい弱めに押し退ける。
 正直手伝ってもらいたいのが本音だが、不躾にやって来た兄の言いなりになるのも癪な気がした。しかし諍えない魅力を含んだ声に導かれたかのように、右手がすっかり勃ち上がったものを掴んでいた。
 エドガーがじっと見つめる中、マッシュは一度だけ横目で兄を見て、それから唇を噛んで目を閉じる。ゆるゆると自身のものを扱きながら、ふうっと大きく息を吐いた。
 隣にエドガーの気配がある。恋人関係とは言え今まで自慰行為など見せたことのない相手が、マッシュが自分で弄っている様をすぐ傍で見つめていると思うと、心は荒れて下半身が無性に昂ぶった。
 閉じた瞼の裏にエドガーの姿が浮かんでくる。マッシュしか知らないエドガーの夜の顔──ましてや隣から聞こえて来るのは本物の息遣い。淫らな様を想像していた本人が横に居ることが、より強い刺激になった。
 快感が大きくなるにつれ見られていることへの配慮を忘れて、より気持ち良くなるための動作が顕著になっていく。
 どんな風に扱えばどう反応を返すのか、全てを曝け出していることにたまらない羞恥を感じるものの、同時に普段より自分が興奮していることに気づいているマッシュは、動きが速くなる手を止めることが出来なかった。
「っ……」
 小さく呻いて背中を丸めたマッシュは、手の中に熱く注がれた液体を外へ飛ばさないよう収縮する亀頭を握り込む。ビク、ビクと脈打つ動きが止まるまでそうしていたマッシュは、やがて細い溜息と共に目を開き、項垂れたものを見下ろした。
 無言のまま側に用意していたタオルで手を拭いて、始める前と同様に横目でエドガーを見る。気まずいマッシュの視線にも負けずにエドガーは飄々としている風だが、仄かに頬が上気して見えた。
「……満足したかよ」
 ボソッと尋ねると、話しかけられると思っていなかったのか、エドガーが若干目を泳がせながら「まあ、な」と答えた。
 言葉の割にモゾモゾと落ち着かなく身動ぎするエドガーの不自然な様子に気づいて、マッシュはもしかしてと兄の下半身を瞠る。
 脚を組んで誤魔化しているが、もしかして、と勘付いたマッシュに軽い復讐心が芽生えた。
「……兄貴も、見せろよ。自分でシてるとこ」
 恐らくは「調子に乗るな」と一蹴されるだろうと、駄目で元々の軽い気持ちで要求した。
 だから、一瞬声を詰まらせたエドガーが数秒無言の後に「いいよ」と答えたのは聞き間違いだろうと思ってしまった。
 今なんて、と聞き返すより先に、エドガーが組んでいた脚を下ろして腹の下に手を伸ばす。下衣を緩め始めたのを見て、自分から誘ったというのにマッシュは動揺した。しかし好奇心も募る手前、しなくていいとは言えなかった。
 エドガーは先程のマッシュと同じようにチラリと横目でマッシュの表情を伺って、それからぎこちなく自身のものを外に出す。マッシュが予想した通り、それはすでにやんわりとではあるが頭を擡げていた。
 マッシュの行為を見てエドガーが興奮したのかと思うと、たった今精を吐出したばかりの下半身が疼いてくる。小さく息を飲むマッシュの前で、少し俯いたエドガーはゆっくりそれに触れ始めた。
 最初はゆるりと根元から、じわじわ硬度を増して行くのに合わせて指が先端の敏感な場所を弄り始める。マッシュも何度となく触れたところではあるが、エドガーが自分で慰めている様を目の当たりにすると、普段の閨とは違う昂りが腹の底から沸き上がってきた。
 エドガーは微かに眉を顰め、一文字に結んだ唇に時折力を込めて鼻から間隔の狭い呼吸を繰り返している。自身で快楽を与えていながら、その波に耐えている様子は酷く扇情的だった。
 エドガーの手の動きが速く、大きくなっていく。マッシュは瞬きも忘れて痴態に見入った。俯く角度が深くなり、唇の隙間から小さな呻き声が漏れ出して、そろそろ達するかと思われたエドガーは、しかしなかなかマッシュのように精を吐き出すことが出来なかった。
 マッシュが異変に気づいた頃、エドガーもまた自分の身体が思うようにならないことに気づいたようで、その顔がはっきりと赤面する。同時に腰をやや大きく揺らした動きを見て、マッシュはエドガーが必要としているものが何かを悟った。
 ──ああ、そうか。兄はもう、前だけでは──……
 どうしたものか戸惑うマッシュを、顔を上げたエドガーが物欲しげに見つめる。その羞恥を堪える濡れた眼差しにマッシュの胸が音を立てた時、エドガーの乾いた唇から弱々しい懇願が漏れた。
「……手伝って、くれ……」
 息を飲んだマッシュは、エドガーに同じくすっかり乾いた唇をひと舐めして、押し殺した声で囁く。
「……いいよ」
 マッシュの言葉に眩暈を受けたような仕草を見せたエドガーは、目を伏せてベッドにころりと転がった。
 マッシュは横たわる身体の横に手をつき、もう片方の手をゆっくりと双丘の奥へと伸ばしていった。

(2020.01.24)