「楽しかったなー学校祭」 アパートに帰宅後、マッシュが淹れたお気に入りの紅茶を飲んで寛いでいたエドガーは、ガサガサと音を立てて大きな荷物を整理しているマッシュの声に振り向いた。 「ああ、そうだな」 返事があることを想定していなかったのか、マッシュが存外に嬉しそうな顔をする。 「兄貴と一緒に模擬店回れてメチャクチャ楽しかった! 来年も一緒に回ろうな!」 「それは良いが……、マッシュ、その、お前が片付けてるやつって、アリスの店の……?」 エドガーはマッシュが取り出して畳み直している服を凝視していた。頷いたマッシュは、すでに畳み終わっていた丈の長いウェイターエプロンをわざわざ広げてみせる。 「そう、今日着てたやつ! いらないやつは学校で処分したんだけど、なんか勿体無いから貰ってき……」 「着てくれ」 「えっ」 「着て見せてくれ! 今日は女子も周りにたくさんいたから全然写真撮れなかったんだよ……!」 心成しか目を血走らせてガタガタと椅子から降りてきたエドガーがマッシュの肩を掴む。兄の剣幕に若干引き気味になりながらも、頼まれごとを断るマッシュではない。 その場でパッパッと着替え出すマッシュをエドガーが輝く目で見守る。そうして白シャツに黒いタイ、エプロンを身に付けたマッシュを前に、エドガーはほくほくとスマートフォンを構えた。 「これもつけろよ、ウサギの耳」 「ええ……これはいいだろ」 「ウサギがあるから可愛いんじゃないか。……ああ、やっぱりお前は背が高いからこの長いエプロンが良く似合うなあ……、本当は昼間に撮りたかったんだが、家なら遠慮なく何枚でも撮れるな。あっ、その格好で紅茶淹れてくれ!」 「兄貴……」 はしゃぐエドガーに呆れながらもマッシュは辛抱強く付き合い、面倒な注文付きの撮影会が三十分を超えたところでとうとう根を上げた。 「もういいだろ? 首が苦しくなってきた」 「何言ってる、お前だって俺の時散々撮った癖に!」 「あれは兄貴が死ぬほど可愛かったから!」 「お前だってカッコよくて可愛い!」 ぎゃあぎゃあと喚きながらエドガーがマッシュを追いかける図がしばし続いていたが、ふと接近したエドガーの頭にマッシュがウサギ耳のカチューシャを被せた瞬間、その構図が逆転する。 「兄貴可愛い! 写真撮らせてくれ!」 「お、俺はもういいって……!」 喧騒は夜まで続いた。 |