リクエストより
『やきもちやくマッシュ』


「おい、エドガー、あれくれ」
「ああ、はい」
 半開きのエンジンルームの扉から中をそっと覗いた時に聞こえてきた会話。
 最近頻繁にファルコンのメンテナンスを手伝うようになったエドガーは、長い髪をアップに束ねてセッツァーと背中を向け合い、工具片手に黙々と作業をしつつ、セッツァーから頼まれた「あれ」なる道具を振り向きもせずに後ろ手で渡した。セッツァーも軽く振り返った程度でそれを受け取り、また作業に没頭する。
 その様子を隠れるように見守っていたマッシュは、暗い表情で静かに扉から離れた。
 やがて油の臭いを漂わせながら晴れやかに部屋に戻ってきたエドガーに、マッシュはどうしても笑顔を向けることができなかった。
 シャワーを浴びに行こうとするエドガーを背中から抱き締め、微かに汗ばむ首に顔を埋めて唇を当てる。エドガーが驚いて身動ぎした。
「マッシュ、汚れてる」
「構わない」
 他の人間と心を通じ合わせる姿など見たくはなかった。せめて自分の手でこの不愉快な臭いを塗り潰してやりたい──白い首に歯を立てた。

(2017.09.17)