最近マンネリ化してると思わないか、と聞かれた時にはいいやと答えた。 ちょっと趣向を凝らしてみないかと言われた時にも首をしっかりと横に振り、変わった刺激が欲しくないかと問われた時だってはっきり否と返したはずだった。 それがどうしてこんなことになっているのか。 「ふふ、いい子だ……。大人しくしているんだぞ」 艶然と微笑むエドガーの眼差しに溢れているのは慈愛などではない。獲物を愛でる捕食者の輝きだった。 とうに驚きは消え、諦めに満ちた溜息を深くついたマッシュは恨めしげに頭上を見上げる。見上げると言っても高い位置ではない。ベッドに身体を仰向きに横たえて、頭の上に掲げられた両手首にはやや太めの縄が巻かれ、その縄は天蓋を支える柱に縛り付けられていた。 ベッド脇に立ち、エドガーは手首を拘束されたマッシュを満足げに見下ろしていた。マッシュを拘束した張本人であるエドガーを苦々しく見据えたマッシュは、一縷の望みをかけて兄に請う。 「趣味が悪いよ……解いてくれよ」 「安心しろ、ちゃんと勉強したからな。食い込まないように縛ってある」 話が噛み合わない、そういう問題ではない。マッシュはまた大きく分かりやすい溜息をついた。 それでもエドガーはマッシュがこれらの趣向に対して不同意だったとは受け取っていないようで、ベッドの端にゆっくりと腰掛けてやたら艶めかしい目線を送ってくる。 確かに本気で抵抗すればこんな状態にはならなかっただろう。しかし嬉々として縄を構える兄を蹴り飛ばすことなどマッシュには出来ない。口だけは拒否を伝えていたが、結局あれよあれよという間に手首はしっかり縛り上げられてしまった。 勉強したというのは本当のようで、手首を動かしても痛みはないが縄は緩みもしない。力任せに引っ張ると、エドガーお気に入りの天蓋付きベッドまで破壊してしまいそうで気が引ける。 こんな時ばかりは探究心旺盛な兄の性格を恨む──弱った、とマッシュがまた息をついた時、エドガーが微かな鼻歌を歌いながらマッシュのシャツのボタンに手を掛けてきた。 「たまには変わったことをするのもいいだろう。案外ハマるかもしれんぞ」 にんまりと唇に弧を描くエドガーの微笑みは憎らしいほど美しい。せめてもの抵抗で戒められた手首を動かすと、天蓋が大きく揺れた。ダメだ、やはりやり過ぎると壊してしまう。 エドガーもマッシュが無体をしないと確信しているのか、焦る素振りも見せずに上からひとつひとつシャツのボタンを外していく。前開きのシャツを着てくるよう言われた理由が分かってマッシュはげんなりしたが、やがてはだけた胸元にエドガーの指が走り出してから、その表情が羞恥だけではない感情を含んで歪み始めた。 「あ、兄貴……、それ、擽ったいから……」 「何て呼ぶかさっき教えただろう?」 マッシュの言葉を遮って、穏やかながらも圧のある声でエドガーが囁く。期待に爛々と輝く青い目を前にマッシュはぐっと下唇を噛み、逡巡したのち渋々と口を開いた。 「……ご、……ご主人様……」 途端、エドガーはうっそりと細めていた目を一回り膨らませ、白い頬を薔薇色に上気させた。 「んん……、悪くないぞ……癖になりそうだ」 それは本気でやめて欲しい。自身の肩を抱いて恍惚の眼差しを宙に彷徨わせるエドガーを睨みながら、マッシュはぎりりと奥歯を噛む。 エドガーはひとつ大きく息を吐いて、チラリと横目をマッシュに流した。そして再び指を伸ばし、逞しい胸筋を慈しむように、くるくると指の腹で撫で摩り始めた。マッシュのうなじがゾクリと粟立つ。 両鎖骨の間にある窪みに乗せられたエドガーの人差し指が、つう、とゆっくり腹に向かって滑り降りていく。臍を揶揄うように擽られて、マッシュは思わず腰を引いた。 普段エドガーと閨を共にする時は、マッシュの方が率先してエドガーの身体に触れることが多い。エドガーもただ寝転がって事が終わるのを待っている訳ではないのだが、あえて手を出し過ぎずに夢中になるマッシュの好きにさせているというのが正しいかもしれない。 それがこうして立場をひっくり返されてしまうと、本当はこれまでの夜の生活に不満があったのではと心配になってくる。マッシュの顔色を察したのか、エドガーは元より細めていた目を更ににいっと細くして、マッシュの胸の緩やかな谷間に小さくキスを落とした。 「別にいつものお前に不満がある訳じゃないさ。調べものをしていた時にたまたま縛り方の教本を見つけてな。お前と試してみるのもいいかなと思って」 後で城の蔵書を全て調べて害がありそうなものは処分しなければ。マッシュは胸に誓うが、まずは今のこの窮地を切り抜けなければならない。 エドガーは今度は、手のひら全体でやわやわとマッシュの胸筋から腹筋の盛り上がりを確かめるように撫で摩り、睫毛を伏せてうっとりと吐息を漏らした。 「いつ見ても惚れ惚れするような身体だな。闇雲に筋肉をつけるのではない、スピードを殺さないよう計算したいい鍛え方だ。お前の努力がよく分かる」 そう言って鳩尾辺りに音を立てて口付ける。マッシュが再びビクッと腰を引いた。 触れられてもいない腰回りがむず痒くて仕方がない。柄ではない、というのが正しいのだろうか、こんな風に自由を奪われて好き放題されることに身体が慣れていないのだ。 触れられた分だけ触れ返したいし、同じ強さで抱き合いたい。次に何処に指先が滑るのか分からない不安と、ほんの微かな期待。こんなもの、癖になんてなってたまるかとマッシュは唇をへの字に結ぶ。 エドガーの口角が更ににんまりと持ち上がった。ベッドに膝を乗せ、投げ出されたマッシュの長い両脚の間に無理矢理身体を押し込んだエドガーは、両肘を立ててその下腹部を眼前に頬杖をつき艶っぽく笑う。 やんわり膨らみかけたそこをエドガーが軽く指で突いた。小さく呻いたマッシュは反射的に手で制止しようと腕を動かし、軋む支柱の音にハッとして唇を噛んだ。 「兄貴、やめろって」 「呼び方が違うと言ってるだろう」 「……っ、もう、いいからこれ解いてくれよ!」 「そんなに警戒するな。一緒に楽しもう、マッシュ」 言うなりマッシュの下衣に手をかけたエドガーは、躊躇いもなくひょいっと下げて当然のようにマッシュの分身を引っ張り出す。脚の間で無体を働く兄を力づくなら剥がせるだろうが、万が一にも怪我はさせたくない。 迷いに硬直したマッシュは、触れられたことでゆるゆると頭を持ち上げたものをエドガーが口に含んだ瞬間、思わず目を閉じて天を仰いだ。 「あ……、兄貴……」 やんわりと先端を食み、広げた舌を落としてゆっくり下から舐め上げてくる。自身のものが一気に硬度を増したことを自覚したマッシュは、食い縛った歯の隙間から漏れる息に声が混じるのを堪えた。 全体がしっとり濡れる程度に唾液を絡ませて、改めて先端を咥え直したエドガーは、陰茎の凹凸に沿って舌先でなぞり始めた。形を確認するようにチロチロと滑る感触が擽ったくてマッシュは身を捩る。 先端を弄んだ後は、じわじわと唇を下げていく。マッシュのものはエドガーの口にはやや余るが、それでも出来るだけ根元まで呑み込まんと頭を下げるエドガーのつむじを見て、耐え切れずマッシュは片膝を立てた。 「あに、き、もう、いいって」 立てた膝でエドガーの肩を突く。まるで動じないエドガーは、口内の空気を抜くように咥えたものを強く吸った。 「うっ……」 ギシ、と支柱が揺れる。しばし下腹に力を込めて波をやり過ごし、マッシュは再びエドガーの身体を膝で叩いた。 「兄貴、放して、くれっ……」 硬く尖らせた舌で裏側の筋を撫でられると息が詰まる。歯を食い縛るマッシュの腹の下で、小さく笑ったエドガーの鼻息が柔らかい陰毛を掠めた。 エドガーからの口淫は初めてではない。しかし愛する人の口内を汚すことに抵抗があったマッシュは、射精する前に途中で切り上げさせることが多かった。 もういいと言えばすんなり顔を上げていた兄が、今回はしつこくマッシュのものを咥え込んでいる。下腹部に蹲る頭を優しく剥がすはずの手は身動きが取れず、やはりエドガーを足蹴に出来なかったマッシュにはこれ以上強く制止を求める術がなかった。 必死で腹に力を入れているのに気づいたのか、エドガーがふいにマッシュの臍周りを指先で擽り始めた。思わず腰が引けた隙をついて、エドガーはより激しく口を上下させて唇と舌全体で猛ったものを扱く。 「兄貴、ダメだっ、て……!」 両膝を立ててエドガーの身体を挟み込むが、それくらいで止まる兄ではなかった。喉奥を突いているのではと疑うほどに深くきつく呑み込まれて、温かい口内の強い圧に包まれた瞬間、マッシュはとうとう陥落した。 「く……っ」 腰がビク、ビクと二、三度大きく震える。 しばし目を閉じて現実を見ないようにしていたマッシュが恐る恐る瞼を開いた時、腹の下で顔を上げたエドガーがこれ見よがしにべえっと舌を出して、そこに溜まった白濁の液を晒してから口内に仕舞い込み大きく喉を鳴らした。マッシュの頬がカッと熱くなる。 「……ああ、この味だ。久し振りで忘れかけていた」 口の中で舌をもごもごと動かしながら、エドガーがうっとりと呟く。唇の隙間から見えた舌の赤さがやけに目について、マッシュは苦々しく下唇を噛んだ。 「……俺、それ、あんまり好きじゃない」 「良くなかったか?」 「そうじゃ、ないけど」 「俺は嫌いじゃないんだがなあ」 しれっと答えたエドガーは、口元を指先で品良く拭いながら首を傾げる。 「兄貴にはそういうのさせたくないんだよ」 「お前は俺のは平気で飲む癖に。たまには好きにさせろ。俺だってお前を可愛がる権利がある」 そう言って吐精して萎れたものを指で弾かれて、マッシュは小さな呻き声を漏らした。──やっぱり不満があったんじゃないか。苦々しくエドガーを睨むが、下半身を晒した情けない格好では迫力などないだろう。 ともかくこれで満足しただろうと、マッシュは未だ拘束状態である手首を主張するように支柱を揺らした。 「もういいだろ、早く解いてくれ」 「まさか。お楽しみはこれからだ」 「え?」 眉を顰めたマッシュの前で、おもむろに膝立ちになったエドガーが自身の下衣に手を添える。腰紐を緩め、チラリと横目でマッシュの顔を見て妖艶に微笑んだエドガーは、垂れたシャツの裾がめくれないように焦れったく、艶めかしく下衣から脚を引き抜き始めた。 ゴクリとマッシュの喉が鳴る。白い素足の間からゆっくりと下着を下ろし、脱ぎ去ったエドガーが床に放ったそれを目で追ってから、恐る恐る目線を戻した。 肩幅に足を開いたエドガーの、下腹部を隠したシャツの裾が微かに盛り上がっている。思わず瞬きを忘れて見入ったマッシュを、エドガーもまた満足そうに見つめて頬を紅潮させていた。 「……たまには好きにさせろ」 吐息混じりに先程と同じ台詞を繰り返したエドガーは、四つん這いに手をついてベッドサイドの棚から香油の小瓶を掴んだ。 常にマッシュに視線を定めるエドガーからマッシュも目が離せず、これから兄がしようとしていることを想像して再び下半身が熱くなるのを自覚する。 マッシュの両脚の間で膝立ちの格好に戻ったエドガーは、小瓶の蓋を開けて手の中にとろみのある液体を垂らした。わざとらしく右手の指にたっぷりと絡め、もう一度意味ありげにマッシュへ流し目を寄越してから、その手を自身の臀部へ下ろす。 ふ、と大きめに息を吐きながら、エドガーはゆっくりと中指を後孔に添えた。シャツの裾が捲れて白い尻が覗く。マッシュが凝視する前で、エドガーは微かに眉間を寄せて中指を肉壁の中へと突き立てた。 「ふ……うっ……」 やや苦しげに息を吐き出して、エドガーが指を蠢かせる。息を呑む静けさの中、少しずつ水を掻き回すような音が響き出し、思わず耳をそばだてたマッシュがうるさい雑音だと感じたのは自らの荒い呼吸だった。 エドガーはマッシュが目を離さない様子を確かめてから、小さく微笑んで臀部が見えるように身体の向きを変えた。そして左手をシーツについて、挑発さながら尻を突き出す。 中指の半分ほどが埋められた秘所の桃色を指の隙間から垣間見て、頭と下腹にドンと血が巡ったマッシュは目を見開き、ぐらりと揺れた天蓋の影でハッと我に返った。無意識に伸ばそうとしていた腕がもし自由だったのなら、エドガーを捉えて引き寄せて、マッシュ自ら兄の足の付け根に指を突き挿れていただろう。 エドガーの身体の奥を暴くのは普段ならマッシュの役目だった。香油を絡めた指で少しずつ、万が一にも傷つけないように、エドガーの潤んだ瞳が悦びに震える様を確認しながら、熱を孕む身体を拓いていく──自分が主導権を取れないことが思いのほか苦痛であることに初めて気づいて、マッシュは困惑しつつもほぞを噛む。 ──今すぐあのすらりと伸びた脚を掴んで、ひっくり返してやりたい。無駄な肉のない引き締まった尻たぶを割り開いてやりたい──! 血走った目で凝視してくるマッシュに目を細めて笑いかけたエドガーは、拡げたその場所から指を抜き、湿度の高い吐息を漏らした。 「ふふ、触らなくても充分だな」 心成しか荒い息で囁き、エドガーがすっかり硬度と角度を取り戻したマッシュの腹の下のものを見つめながらぺろりと唇を舐めた。 「兄貴、これ解け」 余裕のない低い声を一笑であしらい、エドガーはマッシュを見据えたまま首を左右に振った。 「呼び方が違うと何度も言ってる」 「いいから、解けッ……」 一際大きく支柱が軋んだ。流石のエドガーも一瞬揺れる天蓋に気を取られたが、すぐにマッシュに向き直って妖艶に微笑みかける。 「そう怖い顔をするな。言っただろう、楽しもう」 念を押すかのような含みのある声で囁いたエドガーが、マッシュを見つめたままゆっくりと腹を跨いだ。マッシュが次の言葉を発する前に、自身の秘所に添えた指で入り口を広げたエドガーが腰を沈めていく。 「……ッ、あにっ……」 一度大きく俯いたマッシュがすぐに顎を上げて強く下唇を噛んだ。 エドガーは深く長く息を吐き、細めた目をとろんと下げて薄ら笑みを浮かべた。 「熱い、な……。お前の形が、よく分かる……」 少しずつ腰を下げ、両膝をついて動きを止めたエドガーが意図的か無意識か孔を締めた。まだ飲み込まれたのは中ほどの位置であるというのに、異常な状況も相まって一瞬達してしまいそうになる。マッシュは徐々に支柱を揺らす軋みの音が大きくなっていくことに、気を回すことが出来なくなっていた。 もっと奥まで貫きたい。腰は自由であるからと下から突き上げようと試みるが、エドガーがふっと腰を浮かす。どうあっても主導権を譲る気はないらしい。 下から睨むマッシュをエドガーが艶然と見下ろす。 「お前に任せると、俺はあっという間に気をやってしまうからな。それはそれで幸せな時間だが……」 ぐ、と再び深く腰を沈めて締め付けられ、マッシュは思わず飛び出そうになった嬌声を寸でのところで噛み殺した。 「たまにはご主人様に任せてみなさい」 戯けた口調とは裏腹に、エドガーが淫猥に腰を前に突き出す。予想していなかった動きに顎を上下させ、マッシュは喘ぎながらも腹に力を込めて快楽に耐えた。 エドガーの言葉通りに任せてしまえば、普段とは違う新たな気持ち良さを与えてもらえるのかもしれない。それが悪い訳でも嫌な訳でもないが、マッシュはそれ以上に与える側の立場に固執していた。 このままエドガーにコントロールされて導かれるより、知り尽くした兄のイイところを突き上げて快感に悶えさせたい。体躯の割には細い腰を両手で掴んで一番奥まで捩じ込みたい、そうギラついた目で訴えるも、やけに睫毛を揺らした涼し気な眼差しが熱を受け流してしまう。それがマッシュの支配欲を無遠慮に煽った。 「おっと。また一回り大きくなったな……もう一度出してもいいんだぞ」 「抱かれるより抱きたい。もう限界だ、解いてくれ」 「余裕がないみたいだな。今楽にしてやる」 言うなりエドガーは一気に腰を落とし、完全に体重をマッシュの下腹に預けた。息を止めたマッシュが目を見開く前で、妖しく腰をくねらせながら手を後方につき、エドガーはゆっくりと片足ずつ膝を立てる。 結合部分を見せつけるように腰を緩く突き出したエドガーが、美しく弧を描いた唇を薄く開き、自らの下腹に片手を添えてそっと撫で回した。 「……分かるか? ここまで、入ってる……」 ゆるゆると撫でられる白い腹、指が掠める柔らかな黄金色の茂みとその下で肉襞を晒す深緋の結合部、それらの頂きで淫靡に濁った薄藍色の蕩けた瞳を順に目で追って、マッシュの頭の中で何かが弾けた。 一瞬吹き飛んだ思考は我を忘れさせるかと思いきや、酷く冷静にマッシュを突き動かした。繋がれた両の手に集中する。腕を動かさず降伏のポーズを取ったまま、戒められた手首のみに気を集め、力任せの無駄な動作を捨てたマッシュは、僅かな呼気と共に目を見開いて静かに縄を引き千切った。 「え、」 エドガーの驚きの声が続く前に、素早く身を起こしたマッシュが腹の上に跨る身体を仰向けに転がす。身体は繋がったまま、抵抗に差し出された両手の手首を纏めて一掴みし、先程自分がされていたように頭の上へ縫い付けた。 マッシュの頭で影が落ちたエドガーの表情が一変する。 「マッ、シュ、待て、」 よもやマッシュが言うことを聞くとは思っていないのだろう。エドガーの茶化した声は震え、何処か諦めが混じっていた。 「多分こっちの方が、うんと良くしてあげられるよ。……ご主人様?」 血走った目を据わらせて不敵に微笑んだマッシュは、図らずも大きく開かせたエドガーの両脚を圧し割って深く腰を突き挿れた。 「アッ……!」 エドガーの白い喉がぐんと仰け反る。マッシュが押さえつけているエドガーの手首が拘束から逃れんと浮き上がるが、マッシュは大きな手でその抵抗を圧した。 「マッ、あっ、ちょっと待っ、ああっ」 「俺ばっかり、イイんじゃ、不公平、だからさっ……」 「アッ、そんな急に、奥に、あー……ッ」 捉えた手首をシーツに押し付けているせいで自然とマッシュの上体が前のめりになり、大きく開脚したエドガーの腰が浮く。突き上げるというより突き下ろすような角度で貫くと、エドガーの口から漏れる声は言葉にならなくなった。 普段擦り付けて兄が悦ぶ場所より深い位置まで届いていることに気づき、その先を探りながら腰を進めて行くと先端が壁に当たる感触があった。同時に不自然にエドガーの脚が跳ねたことで快楽のポイントを理解したマッシュは、一瞬の逡巡ののちにその箇所目掛けて腰を打ち付けた。 「うあっ……」 声を裏返して嬌声というより悲鳴を上げたエドガーは、そのまま大きく開いた口をはくはくと戦慄かせる。弓なりにしなる身体を腰で押さえつけ、びっしり額に汗を浮かせたマッシュがエドガーを見下ろすと、見開いた青い目はどろりと蕩けて服従の色を溶いていた。 請うような眼差しを受け取って、小さく頷いたマッシュは掠れた息を唇で塞ぐ。動きを速めてすぐにエドガーの身体が小さな痙攣を起こし、そこでようやく掴んでいた手首を離したマッシュは、今度は乾いた唇を包みこむように深く口付ける。 自由になった手をゆるゆると下ろしたエドガーは、その腕を汗に濡れたマッシュの背中に回した。 ベッドの上にへたり込んで手首を摩るエドガーを横目に、マッシュはバツが悪そうに頭を掻く。 「ごめん……、力、入れ過ぎた」 微かに赤く痕がついた手首を眺めながら、エドガーは小さく首を横に振って「いや」と答えた。 「気にするな、自業自得だとちゃんと自覚してる」 何の含みもない返答にホッとしたマッシュは、視界に入る忌々しいものを取り払うべく支柱に縛り付けられていた縄を解きにかかる。エドガーは名残惜しそうに縄を見て、垂らした眉を寄せた。 「それ、処分しちゃうのか」 「当たり前だろ。もうあんなの御免だよ」 懲りない兄に呆れた口調で返し、外した縄を手早く纏めたマッシュの腕にエドガーの指が触れる。 振り返ったマッシュの目には、薄っすら頬が赤らんだエドガーの甘えと期待を含んだ眼差しが映った。 「なあ、俺の読んだ本、お前に貸すから……、今度は、お前が勉強してみないか?」 「……勉強、って?」 嫌な予感に顔を歪めたマッシュが恐る恐る聞き返すと、エドガーがほんのり照れ臭そうに痕の残る手首を撫でながら上目遣いに見つめてくる。 すっかり呆れて天を仰ぎ、マッシュは探究心が強すぎる兄の前で深く長い溜息をついた。 |