「……でさ、ガウがびっくりしちゃってさ」 「うん……」 「それでカイエンも慌てちゃって」 「ふうん」 「……聞いてる? 兄貴」 「へえ」 明らかに聞いていない──小さな本を左手に、右手にはペンを持ち時々何かを机上の地図に書き込んで、最後にマッシュに対して噛み合わない相槌を打つ。エドガーは時間が勿体無いという理由で複数の作業を同時に行うことがしょっちゅうだったが、聞く気がないなら初めから聞くそぶりを見せなければいいのに──マッシュは溜息をつき、座っていたソファに寝転んで天井を眺めた。 忙しいのは分かるが、片手間に相手をされるのは寂しい。作業が終わるまで昼寝でもして待つかと目を閉じると、マッシュ、と呼び掛けられた。 「で、カイエンが慌ててどうしたんだ」 エドガーの目線は上がらず、右手も止まらないまま。マッシュが目を丸くする。 「……聞いてたの」 「当たり前だろう」 左手の親指で器用にページをめくったエドガーは、何でもないことのように告げた。 |