診断メーカーより
『まだ半分夢の中にいる状態でキスをねだっている』マッシュ


 ごろりと寝返りを打ったすぐ向かいにある温もりに手を伸ばし、腕の中に引き寄せた。こちらに向けられている背中に顔を埋めると、長い髪が鼻先に触れて擽ったい。
 夕べはどんな風に愛を確かめ合ったのだったか──まだ半分夢の中にいるマッシュは、ぼんやり定まらない記憶を揺り起こすことには執着せず、今感じる暖かさを抱き締めることに集中した。
 愛する人が振り向いた時の顔を想像する。美しい切れ長の瞳は自分と同じ青が煌めき、色づいた桜色の唇は艶めいて自分の名前を口ずさむだろう。目も眩むような魅力的な微笑を湛えておはようと囁いてくれるだろうか。
 その前に、唇を奪ってしまいたい──抱き締める腕に力を込め、首筋に鼻先を擦り寄せて振り向いてくれるよう促した時、ふわりと髪から漂う香りが普段と違うお香のようなエキゾチックなものであることに気づき、マッシュが目を閉じたまま眉を寄せる。
「ま、マッシュ殿……」
 低い声にばちっと目が覚めた。見開いた視界に映る真っ黒な髪と、恥じらうように頬を赤らめてこちらを振り向いている髭面の男──カイエンを前に、昨夜は野営だったことを思い出したマッシュは白目を剥いて再び夢の世界に逃げ込んだ。

(2017.09.17)