額に乗せられた冷たい感触にホッと息をつき、また息を吸おうとして鼻がズズと嫌な音を立てた。息苦しさに口を開けるがそこからは咳が漏れ、大きな手のひらで覆い隠す。 ベッドの上で唸るマッシュの傍らに控えていたエドガーが、苦笑しながら指先をマッシュの首筋に当てた。たった今冷たい水に浸したタオルを絞ったばかりの手はひんやりとして、熱の高い体には心地が良かった。 「見事に風邪を引いたな。何年振りだ?」 「……少なくとも五年は記憶がないな」 エドガーはふふっと声に出して笑い始めた。何が可笑しいのかと熱で痛む目を細めて睨むと、エドガーは感慨深げにマッシュの頬に触れながら、懐かしいものに触れるような優しい目つきでマッシュを見下ろした。 「お前が寝込むのを珍しいと思う日が来るなんてな。昔はこれが当たり前だったのに」 マッシュも覚えのあるこの光景を見上げ、しかし傍にいる人がかつての姿よりずっと美しい微笑みで自分を見つめていることに少々照れ臭さを感じ、鼻を啜りながら目を逸らす。 「……城出て一年くらいはしょっちゅう寝込んでたよ」 「俺も気に病んでいた……少し夜風に当たっただけで熱を出すお前が、一人で無事に砂漠を越えられただろうかと。コーリンゲンの海で高熱を出したお前が、レテ川に流されてもピンピンして戻って来る程になっているとは想像もしなかったよ」 マッシュが思わず吹き出し、その弾みでまた咳き込む。エドガーはまた軽く笑いながらマッシュの肩をそっと撫り、咳が治まったタイミングを見計らって掠めるように口付けを落とした。 「移るぞ」 慌ててベッドの端に体をずらしたマッシュをにんまりと笑いながら眺め、エドガーは悪戯っぽくウインクする。 「お前に看病されるのも悪くない」 かくしてその翌々日。 「……本当に移すことないだろう」 ベッドの上で目元を赤らめ、時折咳き込みながらムスッと天井を睨むエドガーの傍らで、マッシュは濡らした冷たいタオルを硬く絞った。 「だから言っただろ」 「普通あのパターンは移らないはずだ」 「無茶言うなよ、大人しくしてろって」 ぶつぶつと悪態をつく兄を見下ろし、成る程この景色も悪くないとマッシュは優しく微笑んだ。 |