飛空艇の甲板で見張りとして夜風に吹かれつつ舵を握るセッツァーは、同じく見張り番のマッシュが空を見上げてあっと声を上げたのを聞いた。 「流れ星だ」 その声にセッツァーも天を仰ぐが一足遅かった。それでも取り立てて残念そうではないセッツァーに対し、マッシュは独り言のように呟いた。 「小さい頃いつも同じお願い事してたんだよな」 「何て」 「兄貴がお嫁さんになってくれますようにって」 聞かなきゃ良かった──セッツァーは目を据わらせて会話を打ち切ろうとしたが、マッシュは口調を変えずに一人で淡々と続けた。 「ある日親父と二人で流れ星見たんだよ。何をお願いしたんだいって聞かれて、こっそり耳打ちしたわけ。そしたら親父が物凄く複雑な笑顔になった」 「親父の気持ち分かるわ」 「親父が言うんだよ、『お嫁さんは家族を増やすために迎えるんだ。エドガーとはもう家族だから、お嫁さんじゃなくてもいいだろう?』って。俺泣いたなあ」 「泣きたかったの親父だろうよ」 「でもさ、今思えば親父は俺の気持ちをひとつも否定しなかったんだよな」 否定しなかったのではなくショックで頭が回らなかったのでは──セッツァーは言葉を飲み込み、いい親父じゃねえか、と適当に返した。マッシュはぼんやりした顔でぽつりと零す。 「親父が生きてたら何て言ったかなあ」 「……生きてたら言う気かよ」 「多分。兄貴は嫌がるだろうけど」 「……だろうな」 大事な世継ぎが二人とも非生産的で倒錯した愛を育んでいるだなどと、あの男が先代の王である実の父親に話す訳がない。 「親父、兄貴を頼むなって言ってた」 「……」 「ひょっとしたらこうなるの分かってたのかな」 さあね、とまた天を仰いだセッツァーの視界の端で何かが走る。セッツァーが目を向けると同時に再びマッシュが「あ」と声を上げた。二人はそのまま無言で流れ星を見送る。 「……今は何て願い事してんだ」 戯れに尋ねると、マッシュは真っ直ぐに星を睨んで口を開く。 「……兄貴が幸せになれますように」 セッツァーは鼻で笑い、お前が頑張りゃ叶うんじゃねえの、と肩を竦めて返した。 |