汗でべとつく体の不愉快さに薄っすら目を開く。開いた視界は閉じていた時とあまり変わらない薄暗さで、すっかり陽は落ちたのだと理解した。エドガーは瞬きをする度に鈍痛が走る頭を押さえ、まだ熱が下がっていないことを思い知らされて溜息をついた。 その時ドアに小さなノックがあり、返事も待たずに開く。そっと隙間が空いた景色の向こう、マッシュがトレイの上にランプと食器を乗せて現れた。マッシュ、と呼ぶとランプのオレンジ色の灯りに照らされた顔が少し驚いたものになった。 「起きたのか。調子は?」 話しかけながらベッドの傍にサイドテーブルを引っ張り、トレイを乗せる。ランプの隣にある器の中には湯気を立てた何かの料理が入っていた。 「う……ん、まだ、辛いな」 掠れ声で答えると、マッシュの手が伸びてきて額と頬と首筋に順番に触れていった。普段は暖かいマッシュの手が冷たく感じて心地よかった。 「熱下がってないな。また薬飲まないとな……食べられるか? カイエンに教えてもらったんだ、ゾースイって言うんだって」 「カイエン、か……?」 「これは梅干し使ってないから大丈夫。味見したけど美味かったよ。体起こせるか?」 マッシュに助けられながら上半身を起こすと、頭の奥がずきんと痛んで顔が歪む。反射的に目を瞑り、その奥にも痛みが走って思わず体がフラついたのをマッシュがしっかり支えてくれた。 薄暗い部屋の中で、ランプの灯りだけがぼんやり灯るのを前にしての夕食を不思議に思ったが、部屋全体の明かりをつけると熱の高い目には眩しすぎるからとマッシュが考慮してくれたのだと、ようやくエドガーは気づいた。まだ熱そうな雑炊をひと匙掬い、ふうふうと息を吹きかけて冷ましてからこちらに寄越してくるマッシュに思わず苦笑する。 「いつもと逆だな」 「たまにはいいだろ」 そうだな、と答えて素直に口を開ける。薄味だが出汁の効いたスープが空腹の胃に染み渡り、エドガーはほっと息をついて微笑んだ。 「美味い」 「良かった! たくさん食べてくれ。それで早く元気になってくれよ、兄貴」 目を細めるマッシュのオレンジ色の心配そうな笑みが擽ったくて、早く治さねばと雛鳥よろしく口を開けるエドガーに、マッシュはまた笑った。 |