つい、マッシュを困らせてしまう。
 少し面倒な、でも無理をすれば何とかなる願いを告げると、決まってマッシュは困った顔で笑い、言うことを聞いてくれる。
 この笑顔が好きなのだ。
 眉を垂らして弱り切っているのに、口元は優しく微笑んで「分かったよ」と答えてくれる、その唇の動きが好きなのだ。澄み切った青い瞳が一瞬の迷いに揺れる、その穏やかな波紋が好きなのだ。
 だからもっと困らせたくなってしまう。異国の姫君のようにありもしないものを取ってこいなどとは言わないが、自分のために少々無理をして欲しい。
 その度にあの笑顔で応えて欲しい。他の誰の言うことも聞かなくていいから、自分のためだけに。
 そんなことを言ったら、我儘すぎて付き合いきれないと呆れられてしまうだろうか?
 本人には聞けずにいたそのギリギリのラインが何処にあるのか迷っていた夜、寝たフリをしていた耳元でマッシュが低く囁いた。
「……俺、兄貴に我儘言われるの、好きだよ」
 振り向かずに唇の端だけを持ち上げた。
 こういうところも、好きなのだ。

(2017.10.14)