診断メーカーより
『監禁について考える』マッシュ


 子供の頃、女官が飼っていた小鳥を籠から逃したことがあった。
 狭い空間に閉じ込められて可哀想だと単純に考え、放たれた鳥は窓の隙間から空へ羽ばたき、砂漠の熱にやられて死んだ。籠の中でしか生きられない生き物を悪戯に解放して殺してしまった。
 まるで自分自身のようだと、高熱で朦朧とする頭でベッドを囲う籠をよく想像していた。この狭い空間に閉じ込められ、外では生きられない。弱い自分の体を呪い、しかし籠の隙間からこっそり忍び込んでくる一筋の光に夢を見た。
 兄のその爛漫な笑顔がどれだけ自分を救ったか。いつまでも傍にいて欲しいのに、名残惜しげに去る兄の背中を何度恨めしく眺めたか。
 それでも自分にしか見せることのないあの笑顔が支えとなって日々を過ごして来られた。別れている間もいつでもどんな時も。
 ところが次に逢った時、兄は心を許せる仲間を得ていた。あの笑顔が惜しみなく自分以外の人間に向けられるのを、貼り付けた笑顔の裏でどれほど忌々しく思っていたことか。
 いっそ、今度は兄を籠に囲ってしまおうか。あの時は出来なかったけれど、……今の自分なら造作もない。骨張った指を見下ろして握り締めた。

(2017.10.15)