診断メーカーより
『迷子になって焦ってるけど顔には出さない』


 ほんの少しの冒険を楽しむだけのつもりだった──エドガーは繋いだ手からひくひくと伝わるしゃくり上げる振動をぎゅっと握り締めながら、平然とした顔を装い続けてひたすらに足を進めた。
 ここから先は行ってはいけないと言われた道を、好奇心から大人の目を掻い潜り忍び込んですっかり迷った。ただでさえ広い城の中、入り組んだ道は幼い感覚を惑わせて来た道を隠してしまう。
 嫌々連れて来られたマッシュはもうずっと泣いている。兄である自分がしっかりしなければと冷静に振る舞うが、胸の鼓動は速くなるばかり。
 どのくらい迷っているのだろう。このまま戻れなかったら。誰も見つけてくれなかったら。自分が誘ったばかりにマッシュまで巻き込んでしまった──エドガーが唇を噛み締めた時、ふと背中に落雷のような怒鳴り声が投げつけられた。
「ここで何をしてる!」
 マッシュと共に飛び上がって恐々振り向いた視線の先、仁王立ちしている父の姿を認めて思わず唇が震える。一も二もなく泣きながら父に飛びつきに行ったマッシュに出遅れ、踏ん張った足に力を込めて泣くまいと睨んでいた父の目がふいに優しくなった。おいで、と声をかけられ、エドガーも大粒の涙を零して父の元へ駆け出した。

(2017.10.15)