痛めたりしないように丁寧に洗い上げた金糸にも見紛う髪の艶に満足した兄が、その均整の取れた美しい裸体を隠すことなく立ち上がって背後に回り、背中に手を伸ばしてくる。今度は俺が洗ってやろうか、と意味深に囁くので、思わず赤らんだ顔をむすっと顰めて「いいよ」と断った。
「なんでだ、折角洗ってやるって言ってるのに」
「だって兄貴、変なとこ触るし」
「そうかあ?」
「……この後の予定は?」
「徹夜で書類」
 やっぱりね──その気にさせるだけさせていつもお預けになるのだから、変に煽らないで欲しい──後ろから胸に伸びてきた手をひょいと退けると、ふっと小さく笑う息が首筋にかかった。
「……と思ったけど、お前と寝てしまおうかな」
「!」
 思わず振り向くと兄はすでに背中を向けて、浴室のドアノブを掴んだままちらりと横顔を見せて微笑んだ。
「タイムリミットは五分」
「え、俺まだ身体洗ってな……」
「スタート」
 全力で洗うしかない──入る前より汗だくになって浴室を飛び出した。

(2017.10.15)