アンケートより
第3位『両片思い』


 ごつごつした岩肌の傾斜は険しく、男ばかりのメンバーで訪れたのは悪くなかったと思う一方、装備の重い自分にとってはいささかキツイ道のりであったとエドガーは回転のこぎりを抱え直す。
 せめてもう少し軽装で来るべきだったとはためくマントの裾を邪魔に感じながら、短いが急な下り道をうまく降りられるか足場を確認していた時、前を進むマッシュが振り返った。
「兄貴」
 呼びかけられたと同時に差し出される手のひらにほんの二秒動きを止め、エドガーは軽く笑ってその手に自分の手を乗せる。ぎゅっと握りしめられ、大きな手に支えられながら飛び降りるように下り道を越えると、二人の手がそっと離れた。
「すまんな」
「お安い御用だ。機械、俺が持とうか?」
「いや、大丈夫だ。さあ先を急ごう」
 エドガーが前方を促し、マッシュも頷いて前を向く。マッシュの歩幅よりほんの少し狭めた歩みが先を行くマッシュから意図的な距離を取る。
 エドガーはマッシュの手に重ねた左手を静かに握り、その拳を切なげに伏せた目で見下ろした。
 ──不自然ではなかっただろうか。戸惑いは伝わらなかっただろうか。きつく握られた瞬間、指先が竦んだのを気づかれはしなかっただろうか。
 子供の頃は同じベッドで眠ることすら当たり前だったと言うのに。手を握られたくらいで少女のように震えるだなんて情け無さに顔が熱くなる。
 うつつを抜かしている場合ではないと顔を上げ、大分離れたマッシュの背中を追う。
 しっかりしなければ。邪念を捨てて役目を果たすべく今は進むのみ──


 ──おかしな素振りではなかっただろうか?
 差し出した手が微かに震えていたのを見抜かれはしなかっただろうか。冷たい指先を握り締めた時、離したくない気持ちが強すぎて力が入ったのを妙だと思われなかっただろうか。
 ひらりと傾斜を降りる時に下方を確かめた眼差しの美しさに見惚れて、手を離す前に不必要な間があったことを勘繰られはしなかっただろうか。
 大股で大きな岩を跨ぎながら進むマッシュは苦しげに眉を寄せ、今し方エドガーに差し伸べた右手をさり気なく口元に運んで、兄の指を握り締めた手のひらに密やかに唇を当てた。

(2017.10.23)