はあ、疲れた、休みたい、と先程から弱音ばかりを口から零すロックの背中を叩き、情けないとエドガーが首を振る。
「レディの前で格好がつかないぞ。飛空艇に戻るまで紳士らしくシャキッとしたらどうだ、ロック。ああティナ、荷物が重そうだ、私が持とうか」
 背筋を伸ばしてにこやかにティナに語りかけるエドガーの足取りはしっかりとしていて、今日一日戦闘に明け暮れた後の姿にしては実に様になっている。むくれるロックに苦笑するティナ、そんな三人の後方を歩くマッシュもまたいつもの兄の様子に肩を竦めていた。
 飛空艇に戻って戦いの汗を流した後も、エドガーは部屋に戻るまできっちりとした服装を崩さない。たとえ後は寝るだけであろうとも、仲間の前では常に統べる者としての姿勢を保ち続ける。
 そう、仲間の前では。

 部屋に入るなり濡れた髪もそのままに椅子に座り込み、腕と足を組んで伏せがちの目でぼんやり床を睨むエドガーに、ドアを閉めたマッシュは溜息をついた。
「兄貴、髪。風邪引くぞ」
「疲れた」
 噛み合っていないような返答だが、マッシュには何故エドガーがそう答えたのかよく分かっていたため、やれやれとタオルで髪を丁寧に拭いてやる。マッシュと二人きりになると途端に統率者の顔を簡単に放り投げて我儘になるエドガーの態度に、すっかりマッシュは慣れてしまっていた。
 部屋に戻ると自分では何一つしたくない。濡れた髪も拭きたくない。手足を動かすのが面倒臭い。着替えなんてとんでもない。エドガーの心の声が聞こえてくるようで、マッシュは再び溜息をついた。仲間の前では外面が良いからタチが悪い。
 しかし我儘な兄をそのままにしておけず、結局マッシュが甲斐甲斐しく世話をすることになる。脱がしにくい服はいっそベッドで全て剥いてしまうか──そんな不埒なことを考えながらやや眠そうにしているエドガーを抱き上げようと背中に手をかけると、エドガー自ら頭をマッシュの胸に寄せて体重を預けてきた。ふわりと香る髪の匂いにそそられて、思わず「食っちまうぞ」と小声で囁くと、顔を上げたエドガーがニヤリと微笑む。
 これは翻す言葉が出てくる前に、早めに唇を塞いだ方が良さそうだ。全てを任せ切って抵抗のない身体を抱き上げ、マッシュはキスをしたままベッドに向かった。

(2017.11.11)