ぼんやりと目を覚ますとまだ世界は薄暗く、夜明けまでは時間が早いことを寝ぼけた頭でもすぐに理解した。エドガーは半開きの瞼で睫毛の隙間から薄闇を目的もなく眺めていたが、頭を乗せているマッシュの裸の胸がゆっくりと上下しているのが楽しくなって口元を綻ばせる。
 思えばこんな風に情事の後に服も身につけず、朝まで相手と眠るだなんてマッシュが初めてだった。戯れに後腐れのない女性と何度か関係は持ってきたが、肌を合わせるのは快楽を感じるその瞬間だけで充分だった。処理が終わればもう人肌が不快で早く一人になりたかったのだ。
 それがマッシュに抱かれるようになってから、この逞しい身体に包まれて眠ることの幸福感を覚えてしまった。太い腕は今もしっかりとエドガーの背を支えている。暖かくて、存外に柔らかい胸の上は頬を寄せると心地が良い。かつては疎ましかった他人の熱が、今は愛しくてたまらない。
 相手に主導権を握られるのが苦手だった自分が、自ら脚を開いてでもマッシュに抱かれたいと思っている。最初は認め難かった想いを受け入れた途端、転がるようにマッシュに溺れていった。この胸に縛り付けて欲しいと願うほど、昼と夜で表情を変える血の繋がった弟に焦がれている。
 昨夜の激しい熱を孕んだマッシュの目を思い出し、ぶるりと身体が震えた。まだ朝は来ない。穏やかな寝息を立てているマッシュの胸の上で少し顔を移動させ、目の前に来た突起にそっと舌を這わせた。転がして、軽く頭を起こして口に含み、舌で嬲りながら吸い上げる。
 んん、とマッシュが身動ぎした。構わずに乳首を弄り続けていると、背中にあった腕がぐいっとエドガーの身体を剥がして強い力でひっくり返される。
「……誰だ、イタズラしてんの」
 寝起きの低い声はぶっきら棒であるのにどこか優しく、エドガーの頬が緩む。
「退屈なんだ」
「安眠妨害する悪い兄貴は喰われても文句言えねえんだぞ……」
 包み込まれるように深く口付けられ、やや乱暴に掴まれた肩に伝わる力強さに全身が悦びで粟立つ。もっと激しく、と舌で応戦すれば完全に覚醒した身体にスイッチが入る音がした。
 先程のお返しとばかりにマッシュが胸に食らいついてくる。胸の飾りを吸い上げられ、自分でもゾッとするほど甲高い声を漏らせば、また逆上せるような夜が始まる。まだ朝までは時間がある。

(2017.11.11)