早朝から戦い続けてようやくの帰路、橙の空を背負いながら飛空艇を目指す道中は背後から追撃してくる魔物に切れ目がなかった。最後尾を務めるマッシュも流石に息が切れ、前方を進む兄を含んだ仲間たちに気を配る余裕がなくなってきた。まとまった数を撃退して一息ついた時、後退してきた兄が機械を担ぎ直しつつ険しい表情で声をかけてくる。
「マッシュ、場所を代わろう。連戦し過ぎだ」
 マッシュは首を横に振り、泥と血で薄汚れた顔に頼もしい笑みを浮かべた。
「この中で一番体力があるのは俺だからな。なんてことない。さあもうちょい頑張ろうぜ」
 とは言ったものの、撃ち続けた拳は痺れ足腰も気を抜くと震えが来そうな程に疲弊している。飛空艇に辿り着くまで仲間の手を煩わせる訳にはいかないと踏ん張ってはいるが、限界は近い。兄は心配そうに眉を顰めたが、軽く苦笑し、分かったと頷いた。そして、「気付けだ」と一言、掠めるようなキスをくれて続きは夜にと耳元で囁く。
 一気に身体中に熱が駆け巡り、力が漲ってくる。おーし! と大声で気合いを入れたために先頭のロックが驚いて転倒したことなど露知らず、鬼神の力が蘇ったマッシュは魔物の群れを薙ぎ倒して火点し頃の空の下を突き進んだ。

(2017.11.19)