まだ空が薄暗いうちに兄を起こさぬようそっとベッドを抜け出し、軽く身体を動かして小一時間、シャワーで汗を流してさっぱりしてから部屋に戻った。ベッドの上では眉間に皺を寄せた不穏な寝顔の兄が横向きに眠り、伸ばした腕で何も無い隣の空間を弄っている。
 寝息は整っているから確かに眠っているのだろうが、顰めっ面でもぞもぞとシーツを撫で、何かを探しているような手つきに思わず苦笑した。そうっと毛布をめくりつつ、兄の手が逸れた瞬間を狙って素早く隣に潜り込む。
 再び捜索を開始した兄の手が肩に触れる。胸を辿ってしばらく撫で回され、それでも黙って様子を伺っていると、兄の眉間の皺がふっと消えて実に幸せそうな微笑みを浮かべ出した。そのまま身を乗り出すように肩に頭が乗せられて、捕まえたとでも言いたげに伸ばした腕でぎゅうっと身体を抱き締められて、こっちの頬は緩みっぱなしだ。
 淋しい思いをさせてごめんと抱き返し、露わになった兄の背中が冷えないように毛布をずり上げ、艶やかな髪に顔を埋めて目を閉じる。すでに朝日は昇りかかっているが、あと少しだけ。
 愛する人を抱えて眠る、二度寝の魔力には諍えない。

(2017.11.19)