寝汚く俯せで枕にしがみつく兄に溜息を落とし、目の毒である白い背中に他意を込めないようそっと触れて揺り起こす。
「兄貴、そろそろ起きないと。朝食前にみんなで作戦会議するって言ったの兄貴だろ」
「う……ん、あと五分……」
「ダメだって、だから昨日早く寝ようって……」
 言い終わる前にごろりと仰向けになった兄が、素早く腕を首に絡み付けて引き寄せてきた。バランスを崩して兄に覆い被さった身体を起こす前に、唇を深く塞がれて息が止まる。拘束は思いの外長かった。
 唇が離れた後、乱れた金髪を辺りに散らした挑発的な目と視線が合う。思わず喉をごくりと鳴らすと、小さく笑った吐息が唇にかかった。
「何言ってる。一回じゃ足りなかった癖に」
 寝起きの掠れた声は反則級に艶めかしい。動揺で言葉を詰まらせていると、するりと腕を解いた兄は一糸纏わぬ姿で軽やかにベッドを下り、散らばった服を身に付け始めた。
 何とか起きてくれたのはいいが、所作がいちいちこちらの心臓に悪い──ベッドの中の姿とは別人のように佇まいを整えて、実に涼しい顔で部屋を出る兄の後ろを苦々しく歩く。
 どうにも兄には敵わない。昨夜だって強請ってきたのは兄の方だったというのに、あの目で見つめられると言い返すこともできなくなってしまう。悔しいが、惚れた弱みだ。
 朝食前の短い時間で簡単な作戦会議を終え、仲間たちがそれぞれの役割を果たすべく談話室を後にする中、ふとガウだけが兄に近づいてくんくんと鼻を寄せた。意図を図りかねて不思議そうにしている兄に、ガウは首を傾げて真っ直ぐな目を向け、全く悪気のない顔で尋ねた。
「エドガー、いっぱいマッシュのにおい……いっしょ、ねたのか?」
 その途端、涼やかさを気取っていた兄の顔が爆発したみたいに真っ赤に染まった。首まで赤くなったその姿に思わず口元が緩み、ブッと吹き出したのを聞きつけた兄に睨まれる。
 あのね、それはね、としどろもどろにガウに言い訳をする兄の珍しい様子に笑いが止まらず、口を手で覆いながら二人を置いて行こうとすると、怒ったような兄の声に呼び止められた。
 仕方がない、ガウへの口止めくらいは手伝ってやるか──これで優位に立てると機嫌よく兄とガウの元へ戻ると、今度はガウがこちらに鼻を寄せて「エドガーのにおい……?」と首を傾げた。

(2017.11.20)