11/22のいい夫婦の日によせて2


 刺繍の入った白い封筒に入っていたカードを読んだエドガーは、穏やかに微笑みながらふうっと小さく息をついた。
「ロックとセリス、連名で手紙なんて珍しいな」
 カードを手にするエドガーの前に淹れたての紅茶を置いたマッシュは、隣に座ってエドガーの手元を覗き込む。エドガーはマッシュにも見やすいようにカードの角度を変え、「結婚式への招待状だ」と囁いた。へえと眉を上げたマッシュはカードを受け取り、日時や場所を確認する。
「とうとうあの二人が夫婦になんのか」
「そのようだな。まあいい頃合いだろう、あまり長く待たせるとセリスのような美しい女性は他の男も黙っちゃいないだろうからな」
 マッシュは笑いながらエドガーにカードを返し、エドガーは受け取ったカードを封筒に戻しながら軽く目を伏せた。
「……夫婦、か。縁遠い言葉になってしまった」
 独り言のような呟きを聞き咎めたマッシュがエドガーに顔を向けると、エドガーは微かな笑みを浮かべたままどこか淋しそうに視線を落としていた。マッシュが軽く眉尻を下げる。
 親しい人たちに囲まれて夫婦になるかつての仲間と、人目を忍んで愛を育む自分たちの関係は対照的で、決して同じように祝福されることはない。誰にも告げず、悟られることも許されず、人前で手を繋ぐことすら出来ない秘密の恋。
 それでも後悔など微塵もなかったマッシュは、そっと腕を伸ばしてエドガーの肩を抱き寄せた。
「……俺たちも夫婦みたいなもんじゃん」
 エドガーが顔を上げる気配を知りながら、素知らぬ風で嘯き続ける。
「好きな人と家族になってずっと一緒に暮らすんだろ。俺たち産まれた時から家族だし、同じだよ」
「……マッシュ……」
 ふふ、と小さく笑う吐息が首にかかり、エドガーの頭の重みが肩にかかる。
「そうか。……そうだな」
「そうだよ。ロックとセリスの結婚式には夫婦揃って参列しよう」
「夫婦揃ってなら祝儀を弾まなければな」
「祝い事だからな、ぱーっとな」
 ははは、と笑ったエドガーは、肩を震わせて笑いながらマッシュに身体を寄せ、胸元の布地をぎゅっと握り締めた。震えの理由が変わったことにマッシュは気付いていた。震える身体をきつく抱き締め、愛してるよと囁くと、エドガーは黙って頷いた。ゆっくりと、深く。

(2017.11.22)