間も無く日付が変わろうという頃、卓上で書き物に勤しんでいたエドガーが眼鏡を外して息をつく。ソファでくつろいでいたマッシュは兄の気配に目敏く反応し、立ち上がって傍へと近付いた。 「終わり?」 「ああ、もう目が疲れた」 「歳なんだから無理すんなよ」 「お前も同じ歳だってことを忘れてないか?」 マッシュは軽く笑って革張りのチェアに腰掛けるエドガーの背後に回り、白髪がちらほら見える長い髪の房をひと撫でしてから肩に手を添えた。マッシュにとっては軽い力でマッサージを開始すると、兄が心地良さそうに息をつく。 「相変わらずガチガチだな」 「仕方ないだろう、立ち上がる暇もない」 「訓練場に顔出さなくなって何年経つ?」 「何年かな……もう槍も振れんよ。運動不足ですぐ息切れする」 「じゃあさ」 エドガーの肩を揉んでいた手が止まり、そのままするりと胸まで降りて来て、チェアの背凭れごとマッシュに後ろから抱き締められたエドガーがぴくりと身体を震わせた。 「たまに運動しないか?」 吐息混じりの低い声で囁かれ、思わず熱を感じた頬に戸惑ったエドガーは手で口元を覆う。 「……な、なんだ。……珍しいな」 「久し振りに……嫌?」 「い、嫌では……ないが」 マッシュの腕がぎゅうっときつくエドガーの身体を拘束し、その力強さに目眩を覚えるほど気持ちが一瞬にして昂ったことを実感したエドガーは、軽く首を後ろに回して照れ臭そうにマッシュを上目で覗き込んだ。 「……前より弛んだかもしれん……」 小声でぼそりと呟くエドガーに目を細めて微笑んだマッシュは、尖り気味の唇にちゅっと音を立ててキスをしてその頭に頬擦りした。 「兄貴は昔からずっと誰よりも綺麗だよ」 臆することなくむず痒い台詞を口にするマッシュに赤面したエドガーは、気恥ずかしさで返事ができずにマッシュの肩に頭を寄せて意思表示をする。マッシュは兄の額にも小さなキスを落とし、一度腕を解いてからチェアを回転させて、向かい合ったエドガーの身体をひょいと抱え上げた。 数ヶ月ぶりの誘いに言葉通り若干弛んだ腹回りを気にしつつ、エドガーはマッシュに身を委ねて目を閉じた。 |