飛びかかってくるガウの攻撃をうまく受けつつ次の一手を誘導し、稽古をつけるマッシュから少し離れたところで二人をスケッチするリルム。それが数分後にはガウとリルムが力こぶを作ったマッシュの右腕と左腕にそれぞれぶら下がり、大きく振り回されて楽しげな歓声を上げていた。 子供二人と一緒に大きな口を開けて笑うマッシュの様子を飛空艇の甲板から見下ろしつつ紫煙を燻らせるセッツァーは、隣で縁に肘を乗せて同じくぼんやりと土の上ではしゃぐ三人を見つめるエドガーに、独り言のようなトーンで話しかけた。 「ガキと一緒になって騒いでんな、あいつ」 てっきり軽い苦笑混じりの同意が返ってくると思っていたが、反してエドガーの目は何処か虚ろで影を被っていた。押し黙るエドガーを不審げに見ると、少ししてようやく口を開いたエドガーがぽつりと呟く。 「マッシュは……子供の扱いが上手いよな」 「ん? 上手いっつーか、同レベルっつーかな」 「あいつ、いい父親になるよな、きっと」 セッツァーは眉を顰め、じっとマッシュに視線を注ぐエドガーの言わんとすることを理解して、仲間内でただ一人エドガーとマッシュの関係を知る身としてその言葉に呆れて溜息をついた。 「……自分で言って落ち込むくらいなら最初から想像すんじゃねえよ」 煙と一緒に吐き捨てるとエドガーは再び沈黙し、微かに眉を顰めてややしばらく経ってから、ごく小さな声で「すまん」とだけ呟いた。 謝られる筋合いはない。一人で考え込んで一人で土壺に嵌っているのだから自分には関係のないことだと肩を竦め、セッツァーは今度はガウとリルムを肩に乗せて走り回っているマッシュを見つめてからチラリと横目をエドガーに向けた。 「俺ぁどうこう言うつもりはねぇがよ。お前が今頭に思い描いてるあいつの幸せと、あいつがなりたい幸せは同じか? そうは思えねぇがな」 「……マッシュは長く城を離れていた。この戦いが無事に終わったとしても、その後窮屈な城に留めるのは酷だろう」 「それはあいつが決めることだ」 「あいつは優しいから私に気を遣って」 「エドガー」 急に雄弁になったエドガーの言葉を無理に遮り、セッツァーは強めの語調で釘を刺す。 「あいつが誰よりてめぇの幸せ願ってること忘れんな」 エドガーは唇を噛み、黙り込んで項垂れた。 |