三ヶ月ぶりに城に戻った弟の笑顔には隠し切れない疲労が滲み出ていた。此度命じた視察の場所は何処も戦禍の爪痕がくっきり残っていただろう。酷な行き先を選んだのは本人だった。 夜半に私室を訪れた弟は、ソファに座りもせず暖炉の前の床に胡座をかき黙って揺れる炎を見つめていた。大きな背中が心成しか丸まっているように感じる。 何か声をかけるべきか迷って、何も言わずにその背のすぐ後ろに腰を下ろし、頭と肩を寄り添わせた。気配で近くに来ていたことは分かっていたのだろう、弟の背中は微かに揺れただけでそれ以上動こうとはせず首が振り向かれることもなかった。 「……家も親も失くした子供を何人も見たよ」 低い呟きに、ああ、と相槌を打つ。 「あの短い期間では、俺は知ることが精一杯で」 淡々とした声色で感情を殺そうと努めていることが分かった。 「何もできなかった」 黙ったまま頷いた振動は伝わっているだろう。 「……知らないままじゃなくて良かった」 決意のこもった呟きに思わず瞼を伏せて苦く微笑み、頼もしい背中に頬を寄せる。──それがお前の答えならば、もう止めることはないだろう。 |