「象徴? くだらない。受け取る側の人間が幾らでも都合よく解釈できるものに縋るほど、私は今の立場に執着してはいない」
 朦朧とする意識の中でも鋭く飛んで来る声をはっきりと耳で拾い、自由にならない身体を何としても動かさねばと懸命に捩るのだが、辛うじて首の位置をほんの僅か傾けることに成功するのみで、声の主の姿を視界の端に無理やり収めることしかできなかった。
 やめろ、と唇を動かしてはみるものの側から見れば微かに震えているとしか感じられないだろう。伸ばすべき腕の拘束は強い。閉じてしまいそうになる瞼をこじ開けるのが精一杯だなんて、自分の無力さへの怒りで気が触れそうだ。
 マントを払い腰に下げていた短剣を手に、絹糸を束ねたような髪を無造作に掴んだあの人に、せめて一声届いたら。やめてくれと出ない声で叫んだ無音の祈りは叶わずに、ざくりと無造作に切り取られた美しく長い髪は、紺碧のリボンごと地に投げ捨てられた。
「次はなんだ。この両眼を抉れば満足か」
 軽く頭を振り纏わりつく髪を落として、放たれる涼やかな声には微塵の躊躇いもない。護りたいただ一人の人にとってこの身が枷になろうとは。

(2017.12.17)