「なんとか終わったな」 仲間たちとのクリスマスパーティーの後、マッシュとエドガーは早々に寝かせたガウの枕元にこっそりプレゼントを置くミッションを終え、マッシュの部屋でグラスを合わせていた。 「セッツァーはリルムんとこ無事に置けたかな」 「あの男はブツブツ言いながらもうまくやるさ」 エドガーがパーティーの時から被っていたサンタクロースの赤い帽子を脱いで軽く頭を振った時、これまで帽子で隠れていた赤いリボンが現れたことに気づいたマッシュが目を留める。 「あれ、リボン、今日赤いんだ」 「ああ、クリスマスだからな、今日くらいは」 「へえ、兄貴は赤も似合うなあ」 マッシュが心からの言葉を伝えると、ふとエドガーが押し黙り、上目遣いにマッシュをチラリと見た。 「……解いても、いいんだ、ぞ」 「ん?」 マッシュが笑顔のまま首を傾げると、エドガーは薄っすら頬を赤らめてサッと目線を逸らす。 「その、クリスマスの……プレゼント、を……」 らしくなくボソボソと口籠るエドガーの言葉の脈絡が分からず、マッシュは今度は反対側に首を傾けて澄んだ瞳をぱちぱちと瞬かせた。 「プレゼントあるの? でも髪のリボンは解くの勿体無いよ、折角綺麗に結んでるのに」 マッシュがさらりと告げると途端にエドガーの顔が爆発したように真っ赤になり、そのままぎこちない笑みを口元に浮かべたエドガーは目を泳がせながら立ち上がった。 「そ、そう、だな。このままで、いいか。きょ、今日はもう遅いから部屋に戻るな! じゃあマッシュ、また明日」 「え? う、うん、おやすみ……」 立ち上がった弾みで膝に乗せていたサンタ帽子が落ちたことにも気づかずに、エドガーにしては珍しく騒がしい所作でドタバタと部屋を出て行ったのを見送って、さっき栓を開けたばかりなのに、とまだ半分以上残っているワインの瓶を見たマッシュは不自然な兄の態度を思い返す。 ──何であんなに急に出てったんだろ……? 遅いって言っても普段はこのくらいの時間ならまだ起きてるのに…… 赤いリボン……解く……プレゼント……? 「……あっ」 頭の中でようやく点が線になったマッシュは慌てて後を追うべく立ち上がり、エドガーが置いて行った帽子に足を取られてすっ転びつつ、貰い損ねたプレゼントを受け取りに部屋を飛び出した。 顔から火が出るかと思った──大して走ってもいないのに荒い呼吸で自室のドアノブに手をかけたエドガーは、下心丸出しだった自分に比べて何と弟は純粋なのかと、火照った顔を扇いだ。 クリスマスだからと浮かれた自分が恥ずかしい。イヴの夜の雰囲気に当てられて一人でその気になっていただなんて、さっきの会話を思い起こす度に羞恥で倒れそうだ。 一人で頭を冷やすかとドアを開きかけた時、廊下の向こうから騒々しい足音が聞こえてきた。振り向くと物凄い形相のマッシュが全速力で走ってきており、ヒッと引き攣れた声が漏れる。 マッシュはエドガーの目の前で急ブレーキをかけ、ノブに触れていないもう片方の手を取り両手で握り締めた。 「あ、あの、兄貴、その、」 「な、なんだ」 「……リボン、やっぱり、解く……」 背中を丸めてエドガーと目線を合わせ、真っ赤な顔で呟いたマッシュの言葉にエドガーも耳まで赤くなった。──伝わった。伝わったはいいが懸念事項がもうひとつある。 「ちょ、ちょっと待て」 「えっ」 「五分、五分ここで待ってろ。五分だけ」 マッシュの手を振り解いてドアの外を指し示し、慌てて滑り込むように室内に入ってドアを閉める。マッシュが追いかけて来てくれたことはこれ以上ないくらい嬉しいが、自分一人で張り切っていたことを更に露呈するのは避けたい。 クリスマスなら勝負下着だろ、なんて面倒臭そうにアドバイスをくれたセッツァーの首を絞めたい──ひとまずこの恥ずかしい下着だけは取り替えておかないと、ヤル気満々だったのがバレてしまう──急いで下半身の衣服に手をかけ下に下ろした瞬間、ドアが遠慮がちな音を立てて開いた。 小さい隙間から顔を出したマッシュと、両サイドを紐で結んだゴージャスな赤いパンツ姿のエドガーの目が合い、二人の顔から確かに火が出た。 「お前、五分待てって……!!」 「も、もう五分経ったかなって……!!」 慌ててずり上げようとした衣服が足首に絡まって前のめりになったエドガーを、素早く室内に飛び込んで来たマッシュが支えて抱え上げた。 「お、おい、マッシュ」 「そっちも、解く」 ついには首から上半身まで赤くなったマッシュは、全身が火照って熱くなったエドガーが息苦しそうに開けた口を塞いでベッドに向かった。 |