廊下を進む靴音がやけに反響して遠くまで伸び、その音を遮る人々の話し声や生活の息遣いはひとつとして聞こえてこない。 不気味なほどに静まり返った城内に戸惑って足を止めたマッシュの隣で、エドガーもまた立ち止まった。 「どうした、マッシュ」 「いや……、こんなに静かな城は初めてだなって……」 エドガーが目を細めて笑い、二人の他に誰もいない廊下を振り返って穏やかな声で説き始める。 「親父がいなくなってからお前が城で年を越したことはなかったな。皆、年越しくらい家族と共に過ごしたいだろう……身寄りのない者以外はほぼ家や故郷に帰している」 「え、毎年か? それじゃあ……兄貴、淋しかっただろ……?」 こんなに静かな年末だなんて、とマッシュが辺りを見渡す様をエドガーは眩しいものを見つめるように眺め、それから軽く瞼を伏せて首を横に振ってみせた。 「そうでもないさ。全くの無人になる訳ではないし、ばあやもいてくれたしな。年越しだけは仕事に忙殺されずに穏やかに過ごせていたよ」 「でも、静か過ぎる……」 マッシュの呟きすら反響しそうなシンとした空気の中、過去のエドガーを思いやるマッシュの悲しげな眼差しを受けて照れ臭そうにはにかんだエドガーは、気を取り直すようににっこりと笑って軽く小首を傾げながらマッシュに問いかけた。 「お前は年越しをどう過ごしていたんだ? ダンカン殿の元で暮らしていた頃は」 尋ねながら再びゆっくりと歩き出したエドガーに歩調を合わせ、マッシュが答える。 「うんと、おかみさんがいつもより豪華な料理作ってくれた。酒も普段はあんまり飲ませてもらえなかったけど、年越しだけはおっしょうさまからガンガン注がれて……」 「ははは、賑やかだったろうな」 「でも兄貴のこと思い出さない年はなかったよ」 ふいに真面目な声になったマッシュに顔を向け、エドガーはマッシュがじっと自分を見ていることにようやく気づく。マッシュは黙ってエドガーに手を差し出し、僅かに眉を下げた優しい目で微笑んだ。 「これからは、ずっと一緒に年越ししような」 マッシュの囁きにエドガーも微笑み返し、差し出された手に自らの手を重ねて握り締める。 「……そうだな」 手を繋いで再び歩き出したエドガーとマッシュは時折笑顔を交わし、二人だけでささやかに新年を祝うべく部屋へと向かう。 静か過ぎる年明けを迎えることはもうないのだと、エドガーは綻ぶ口元をそのままに足を進めた。 |