「じゃあ、明日な」 「うん、おやすみ」 ほんの小さなキスだけを交わして出た兄の部屋から自室に向かう途中の廊下で、自然と弾む足が軽やかにスキップなんて踏んでしまう。 昼からずっと浮かれ調子のその訳は、兄から提案された明日の遠乗りだった。たまたま時間が空いたからとは言われたが、耳元で「久しぶりのデートだな」と囁かれた艶っぽい声を思い出すたび心は踊り胸は騒ぐ。 明日のために早めに寝ようと別れたものの、部屋に戻っても落ち着かない。ベッドに潜っても眠れない。 二人だけで遠乗りなんて何ヶ月ぶりだろう。砂を越えて草原に出た時にフードを取る仕草を、風に靡く美しい金髪を想像するだけでまた胸が高鳴ってしまう──全く眠れず二時間経ち、むくりと身体を起こしてベッドを抜け出した。 すでに寝ているだろう兄の部屋に意味もなく再び向かい、ドアの隙間から漏れる灯りに首を傾げる。そっと開いて中に顔を覗かせると、床に服を敷き詰め腕組みしている兄の姿。こちらに気づいた兄が赤面した。 「その、明日の服を選んでいたら……、こんな時間に……」 お互い顔を見合わせて吹き出し、眠くなるまで一緒にいようともう一度部屋に招かれて、結局朝まで自分の部屋には戻らなかった。 |