刻んだ野菜を鍋に移し、コトコト煮込んでキッチンに良い香りが漂い始めた頃、こういう時ばかり嗅覚の鋭い兄がしれっと現れてコックの逞しい肩に顎を置いた。 「何作ってるんだ?」 嬉しそうに弾んだ声が耳のすぐ傍で聞こえて、マッシュは思わず顔を綻ばせる。 「ミネストローネ」 「いい匂いだ。色も鮮やかだな」 「今日はトマトがたくさん手に入ったからな」 「味見は?」 本音を隠さなくなった兄に苦笑を零して、スプーンを手にしたマッシュは鍋の中身をひと掬い、待ち侘びる兄へと差し出した。 受け取った兄は形の良い唇を軽く尖らせて赤いスープを冷まし、上品に口に運ぶ。含むなり瞼が落ちて目尻が下がり、幸せそうに口角を上げる愛しい兄の顔を間近で見たマッシュは息を飲んだ。 「美味い」 小さく呟いた兄の笑顔が胸を叩いて堪え切れなくなったマッシュは、そのまま顔を寄せて兄の唇を摘むように口付けた。 ぱちっと目を見開いた兄に「味見」と囁くと、白い頬が赤く染まってマッシュは思わず北叟笑む。 甘いデザートは夕食の後で。 |