中庭の石造りの花壇に腰掛け、丸めた背中をぐらぐらと不安定に揺らしながら眠るマッシュをようやく見つけて、安堵に胸を撫で下ろす。
 隣に腰を下ろしたエドガーは、見た目より柔らかな陽に透ける前髪を優しく指先で梳いて、フラついている頭をそっと引き寄せた。肩にかかる重みごと抱いて瞼を伏せる。
 城に戻ってからのマッシュは普段通りの鍛錬の他、これまで関わって来なかった政務に関する勉強を始めてまさに寝る間も惜しんで過ごしていた。元々頭が柔らかく機転の利くマッシュは何を聞いても覚えは早かったが、ギリギリまで時間を使って詰め込むように学ぶ様は人が変わったようにも見えた。
 少しでも力になりたいと笑うマッシュの目指す姿は、エドガーの利き腕となる即戦力なのだ。無理はするなと伝えても、兄貴が言うのは説得力がないとまた笑われた。その笑顔こそが燻んだ心を晴らしてくれるのに、本人にはその自覚がない。
 疲れてこうして転寝をする程追い込まなくとも、暖かな笑みが隣に在るだけで何にも代え難い存在だと言うのに。
「傍にいてくれ、レネ」
 もう離れてくれるな。抱いた耳元に囁いて、エドガーもまたうたかたの夢を見る。

(2018.01.18)