まだ陽が昇り切っていない薄暗い早朝、飛空艇の甲板にて念入りに基礎鍛錬をこなしていたマッシュは、技の構えを取ろうと大きく広げた足を自分の汗溜まりに滑らせて体勢を崩しかけた。 ギリギリで転倒を持ち堪え、開いた足の両膝に手をついて息をつく。俯いた鼻先からまたぽたりと汗が落ちた。 これ以上床を汚すとセッツァーに怒られるな──腕で顔の汗を拭い、モップ掛けをしてから部屋に戻るかと修行を切り上げたマッシュは、ふいに操舵の影からゆらりと立ち上がった存在にびくりと肩を揺らす。いつからそこにいたのか、シャドウがじっと横目でマッシュを見据えてから、インターセプターを従えて足音もなく近づいてきた。 「お、おはよ、シャドウ。ずっといたのか?」 「まあな……、お前、ここに来る前に鏡は見たのか」 「? いや、見てないけど」 「ならば着替える時に確認するといい。そしてお前の兄に、普段から軽装なのだから気遣うよう文句を言え」 それだけ伝えたシャドウはするりとマッシュの脇をすり抜け、インターセプターが軽くマッシュに鼻先を向けてから主人の後に続いた。 首を傾げながらも甲板を降りたマッシュは、シャワールームに貼られた鏡に映る自分を見てシャドウの忠告を理解する。──首筋と鎖骨の間に一際目立つ赤い斑点。 「えっ……、なんで兄貴だって分かった……?」 斑点が目立たなくなる勢いで全身を真っ赤に染めたマッシュは、まだ自分のベッドで眠っているだろう兄にシャドウの言葉をどう報告したものか、頭を悩ませた。 |