カーテンの隙間から漏れる光と、それから数秒も経たずに城全体を揺らすように響き渡る雷の轟音に肩を震わせ、頭から被った毛布の端を握り込む。
 その隣でぴたりと肌を合わせて同じく毛布に潜り込んでいる兄が、そっと背中を撫でてくれた。
「大丈夫だ……、もうすぐおさまるよ」
 兄の声は柔和で優しく、雷への恐怖でずっと嗚咽を漏らし続けるマッシュを守るように身体を抱き、雷鳴を掻き消さんと耳元で囁き続けている。
 寝室の灯りが落ちてから間も無く雷が鳴り始め、隣の部屋にいた兄がマッシュの元に吹っ飛んで来るまで数分もかからなかった。ガタガタ震えていたマッシュのベッドに飛び込んで、兄はマッシュとさほど変わらない体格で怯える弟を包み込んだ。その頼もしい温もりに恐怖は幾分和らいだが、雷鳴が轟けば身体は無意識に強張る。その度に兄が大丈夫だと繰り返した。
(あにきはすごい)
 同じ年なのに自分より強くて頭が良くて何でもできる。雷だって怖がらない。
 再び室内を光が照らし、壁にビリビリと振動が伝わる程の爆音が落ちた。ヒッと肩を竦めた時、思わずしがみついた兄の身体から微かな震えが肌越しに伝わる。マッシュは毛布の中の蒸した空気の中で目を見開いた。
(あにきも、こわいんだ)
 でも、怖い自分を殺して真っ先に来てくれた。
「大丈夫だよ」
 自らに言い聞かせる呪文でもあるのだろうか。兄の声はあまりに穏やかで優しい。怖くて震えるだけの自分と、守るべき使命を果たしに来た兄。
 大きくなって今より強くなることができたら、誰より貴方を守りたい──そう伝えたら兄は笑うだろうか。毛布の端を握り締め、兄の肩に頭を擦り付けた。

(2018.01.23)