「……見事だな……!」 素直に称賛の言葉が口をついて出てきた様子を、真横にいる弟がさも満足そうに眺めて得意げに微笑んだ。 「だろ。前に大使として派遣された時もこの季節でさ。兄貴に絶対見せたいって思ってたんだ」 その言葉に顔を向けると、誇らしげに口角を上げるマッシュのこめかみ傍の髪の毛に、薄桃色の可愛らしい花弁がついている。エドガーは思わず笑い、よく似合うぞと揶揄った。 会談で訪れたドマは現在春真っ盛り。桜、なるフィガロでは見たことのない樹木が咲かせる花の淡いピンクが並木道の両側にずらりと並び、あまりの美しさに溜息ばかりが漏れた。僅かな自由時間で花弁が降る道をマッシュと共に散歩すると、この世のものとは思えない幻想的な景色にただ夢見心地に見惚れてしまう。 「兄貴だって花弁だらけだよ」 同じくマッシュが笑って答えた。自分では当然見えるはずもないエドガーが、取ってくれと頭を差し出すと、マッシュは困ったように首を横に振った。 「綺麗すぎて……、取るの勿体無い。やばい、兄貴、桜に負けてない……滅茶苦茶綺麗……」 ほんのり首と耳を桜色に染めたマッシュが口元を手で覆い、桜をバックに立つエドガーの姿をまじまじと見る。 「どうしよ、ここで抱き締めちゃダメか……?」 「な、何言ってる、他国の何処で誰が見てるか分からんようなところで……」 「だよなあ、あ〜早くフィガロに帰りたい、でも帰ったら桜はないし、あ〜もう」 葛藤で乱雑に掻いたマッシュの頭からヒラリと花弁が落ち、エドガーは満更でもない様子で小さく笑った。 |