go limp




 少しの予感と共に兄の部屋を形だけノックし、ドアを開けると案の定疲れ切ったエドガーが机に伏すようにだらりと崩れていた。
「マッシュか……俺もお前のところに行こうかと思ってた」
 声に生気がない。近寄れば瞼が半分近く降りており、眠気のピークを迎えているらしい。
「また無理したな。ほら、ベッド。運ぶ」
「嫌だ……今日は昼間砂漠で作業してたから髪が気持ち悪い……」
「ったく、仕方ねえなあ」
 マッシュはエドガーの腕を取り肩に担いで、力の抜けた体を持ち上げる。
「もっと丁寧に……」
「注文うるさいぞ、ほらがんばれ」
 ぐにゃぐにゃとしたエドガーを引きずるように部屋の奥に連れて行き、王専用のシャワー室へと辿り着く。胸元に手をかけ服を肌けていくが、エドガーはされるがままで今にも眠りに落ちそうだった。
 かろうじて腕を上げたり足を上げたり僅かな協力を得てエドガーを全裸にすることに成功したマッシュは、そのまま兄を小さな椅子に座らせシャワーに手を伸ばす。
 適温を確かめて足元から少しずつかけてやり、時折眠気でかくりと折れるエドガーの首を支えながら、ご所望の髪をたっぷりと濡らして洗粉の泡を立てた。金色の指通りの良い髪にふわふわの泡を乗せて丁寧に洗う。気持ちが良いのかエドガーがマッシュに完全に頭を預けて息をついた。
「痒いとこは?」
「んー……右の後ろ……」
 要望通りに洗い上げ、お湯でしっかりすすいでやり、最後に香油を馴染ませた。
「体は?」
「洗ってくれ……」
 ため息ひとつ、仕方なく人形のように力のない兄の足から手から甲斐甲斐しく洗い、ごめんと断りを入れて下腹部にも手を伸ばした。ちょっとした拷問のようだが、半分以上寝かかっている相手なのだからと自分に言い聞かせてマッシュは黙々と務めを果たす。
 すっかり磨かれたエドガーは満足げに瞼を下ろしていて、とうとう寝てしまっただろうかと濡れた肌を拭いてやりながら顔を覗けば「寝ていない」と呟きだけ返ってくる。呆れながらも今度は膝下に手を入れてエドガーの体を抱き上げ、大事な部分はタオルで隠してシャワー室を出た。
 ベッドに下ろしてやり、「服は?」と尋ねるとエドガーが首を横に振る。暖炉に火は入っているので風邪を引くこともないだろうと、そのままエドガーに毛布をかけようとしたら腕を掴まれた。
「待て。お前、俺がこの状態なのにまさか無反応なんじゃないだろうな」
「何言ってんだよ、今にも寝そうな癖に。疲れてんだろ、早く寝ろよ」
 当然無反応ではなかったマッシュが苦々しく零すが、エドガーは落ちそうな瞼で凄味をきかせてマッシュを睨む。
「……ダメだ。このまま寝ても頭だけ冴えてすぐ目が覚める。頼む、考えられなくしてくれ」
「頼むって言われても……」
「マッシュ」
 掠れた声で囁かれては降参するしかない。マッシュは頭を掻いて、赤面する頬をごまかしながら言った。
「分かったよ、俺も簡単に体洗ってくるから」
「いい。お前の匂い、嗅ぎたい」
 とんでもないことを言ってくれる。
「……もう、知らないからな」
 首や耳まで熱を感じながらシャツを脱ぎ捨てベッドに膝をつけると、微睡み半分のとろんとした目でエドガーが嬉しそうに笑った。