色事




 後ろから抱くと余計な凹凸に阻まれずに深く繋がれてお互いに体勢も無理がないし、興奮し切った気持ちをそのままぶち込んでも許されるような感じが俺たちには合ってるかなと思う。特に、気ばかり急いて抱き合うのもそこそこにいつもの手順をすっ飛ばすような時なんかは。
 でも兄貴の綺麗な肩甲骨は堪能できるけど肝心の顔が見えなくて、おまけに一番イイ時に顔を枕に突っ込んでしまうから声が潰れて聞こえない。だからこれはたまにでいい。
 じっくり時間をかけたい時はやっぱり向かい合って愛し合う方が好きだ。兄貴の顔もよく見えるし、どうされたいのか目を見れば分かる。兄貴に気持ちよくなってもらいたいから強請られることは何でもしてあげたい。ゾクゾクするような声を妨げるものはないし、塞いで欲しそうならキスをすればいい。
 ただ、どうしてもその瞬間が近くなると俺も余裕がなくなってしまって、無意識に抱えた兄貴の脚をこれでもかってくらい広げてしまうから、翌日兄貴がいつも歩きにくそうにしている。それは毎度申し訳ないと思うのだけれど、つい抑えられなくなってしまうのだ。だって兄貴のこんな格好を見ることができるのは世界で俺しかいないのだし。もっと全てを開かせてやりたいって、凶暴な気分になってしまうというか…理性が吹っ飛んで細かいことを考えられなくなってしまう。頭にあるのはこの人を俺のものにしたいってことだけ──



「……それで、お前が楽をしたいだけじゃ、ないだろうな?」
 腹の上から荒い呼吸の合間を縫って低い声が問いかけてくる。見上げた景色の中央で、乱れた長い髪の途中に辛うじて引っかかっているリボンを揺らすエドガーの蒸気した白い肌が眩しく映えた。
 横たわるマッシュの腹に跨り艶めかしく腰を動かすエドガーは、薄く開いた唇から温度の高そうな息を吐きながら、普段より多めの瞬きを添えて寝そべっているマッシュを見下ろした。
「そんなつもりじゃなかったけど」
 軽く上げた口角のせいでしたり顔にでも見えたのだろうか、エドガーの眉間が僅かに狭まった。ぐいっと突き出すように振られた腰と意図的な締め付けに煽られ、マッシュが思わず呻く。
「これはこれでくたびれるんだ。お前は寝転がってるだけで良いご身分だが」
「おまけにいい眺めもついてくる」
「いつからそんな、生意気言うようになった……、んっ」
 軽く下から突き上げてやると反り気味だったエドガーの背が更に深く弧を描いた。
 苦しさとも種類が違う眉の角度と、その下で瞼に半分隠された青い瞳の揺らぎ。熱い息で乾いた唇に舌を這わせたいが届かないもどかしさ。筋の浮き出た首を伝う汗を目で追い、鎖骨の窪みを通過して鍛えられた胸筋の膨らみを辿る道筋を見送ったマッシュは、改めて兄は美しいと目を細めた。
 この美しい人が自分にだけ見せる肌、表情。おれのもの、と口の中で呟くとその実感が胸に広がって愛しさが増していく。
 おもむろに手を伸ばして下から両胸を掴み上げるとエドガーの目に戸惑いが浮かんだ。親指で突起を弾いた瞬間小さく漏れた嬌声を聞き逃さず、指先で摘んで少し強めに弄くってやる。エドガーの反っていた背が丸まり、マッシュの臍の傍に手をついて胸を庇う仕草を見せるが、止めろとは口にしない。以前から少しずつ触れているこの場所も快楽を覚え始めているのだろう。
 愛し合うようになってから着実に変わっていくエドガーの身体と、そしてマッシュもまた兄との情事を知る前とは確かに全てが変化していた。修行に明け暮れて疲れて眠るだけだったベッドが、愛を確かめる場所になった。目を見るだけで、指が触れるだけで昂ぶる衝動を初めて知った。
 無理やりこじ開けたエドガーの足の付け根のその奥に、杭のように打ち込んだ熱はマッシュの想いそのものだった。言葉でどれだけ紡ごうと最後に兄の胸を貫くのはこの行為なのだと、何度目かもう数え切れなくなってしまった夜の熱量を思い知る。
 エドガーの口が開きっ放しになりつつあり、その唇の端から唾液が滴るのも構わなくなった頃、まだ遠い果てを手繰り寄せるためマッシュは下からエドガーの腰を押し上げ始めた。
「あ、あ、あ、」
 突き上げる動きに合わせてエドガーの声が大きくなり、徐々に顎が上がっていく。揺さぶられるせいで動きが鈍くなったエドガーの尻を両手で掴み、緩く上半身を起こして突き刺すようにマッシュが腰を打ち付けると、悲鳴のような一際大きな声を上げたエドガーが腕を伸ばしてきた。
 マッシュの首に齧り付くように腕を回し、突き上げられるままに喘いで肩に鼻を擦りつけてくるエドガーがたまらなく愛しく、マッシュは片手をエドガーの背に回してきつく抱き寄せた。
「あ、ア──……」
 びくびくとエドガーの腰が震え、腹に生暖かいものが迸る。マッシュもまたエドガーを貫いたまま濁った精を吐き出して、大きく肩を上下させて深い息をついた。
 しばらくマッシュの肩に顔を埋めて荒い息を整えていたエドガーが、のろのろと頭を上げて蕩けた顔をマッシュの目の前に見せた。その潤んだ瞳の艶やかさにゾクリと背中が震え、マッシュは唾液に濡れたエドガーの唇に噛み付くように口付ける。
 何度も口付けを繰り返せば胸の火は灯り、エドガーが意味ありげに撫で上げた頸がざわりと粟立った瞬間、取り戻しつつあったマッシュの理性が掻き消えて、繋がったままの自身が再び硬くなり始めた。エドガーが自分の中で大きくなるものに気づき、艶っぽく眉根を寄せて色づいた息を吐く。
 その悩ましい表情に簡単に煽られたマッシュは、きつく抱き締めてエドガーの唇を奪いながらその身体をベッドに倒した。
 この胸で押し潰してしまいたい。明日の苦情を覚悟して、マッシュはエドガーのしなやかな脚を抱え上げた。