葛藤




 十年ぶりに再会してから、度々こんなふうにひとつのベッドでぎゅうぎゅうになって一緒に眠る。
 一緒に寝ようと兄貴を誘うと、狭いからなあ、ぐっすり眠れない、と文句を言いながらも兄貴が拒否することはない。
 実際体を密着して目を閉じればあっという間に眠りに落ちるのは兄貴の方で、無防備に俺に体を預けて静かで規則的な寝息を立てているその様はまさしく熟睡状態だった。
 少しくらい俺が身動ぎしようと起きる気配はなく、普段些細な物音ひとつにも聡い兄貴が何の警戒心もなく眠れるのは俺と一緒の時だけと自負している。
 翌朝のすっきりした表情を見ると兄貴が疲れた体を芯から休めることができて良かったと心から思っている。


 兄貴は俺を信じすぎている。


 子供の頃よりも更に指通りよく手入れされた長い髪を指で梳いて、掻き上げた前髪を退けた後の白い額に口付ける俺を兄貴は知らない。
 砂漠育ちであるのに内向きの仕事が多いためか、子供の頃よりも仄白く感じる頬に唇を当てる俺を兄貴は知らない。
 緩く結ばれた柔らかな薄紅の唇にそっと指で触れ、掠めるように唇を重ねる俺を兄貴は知らない。
 この瞳が開けば見る人全てを圧するオーラに溢れる気高い顔も、眠りに落ちれば子供っぽささえ感じる清らかであどけない表情に変わる。
 何をしたって多少のことでは目を覚まさない。完全に体を預けた兄貴は俺に全てを晒して俺を全て受け入れる。
 だから俺は眠れない。
 もうこんなことはやめようと理性が頭で叫ぶのだが、まるで別の人格が体を支配したかのように言うことを聞いてくれない。
 誘うのをやめようと決意したその翌日にはいつものように兄貴をベッドで抱き締めている。
 ああ、今夜も諍いがたい衝動に突き動かされ、人前に晒すことのない兄貴の首筋に喉を鳴らし、宵闇で銀色に光る骨張った白い肌に口付ける。

 この苦しい夜に終わりが来なければいい。