「マッシュ」 ファルコン号を出る仲間たちのしんがりを務め、今まさに戦地に赴こうとするマッシュを呼び止めた声に、誰かと予想するまでもなくマッシュは振り向いた。 今回は留守番組となった兄のエドガーが凛々しく甲冑を着込み青のマントを靡かせて、王の風格でマッシュに向かって歩いて来る。 「頼むぞ。今回の作戦はお前が要だ」 「ああ。ひと暴れしてくる」 マッシュが握り拳を作って逆手に掲げると、エドガーも拳の甲をごつりと合わせた。 それからエドガーは整った顔立ちをより美しく見せる微笑を浮かべ、おもむろに自らの長い髪を結ぶ二段のリボンのうち下のリボンに手を伸ばす。そよぐ先端を長い指先で摘み、優雅な仕草で解くと毛先がはらりと広がって水が落ちるように線になった。 「……これを。武運を祈る」 差し出されたリボンを見下ろしたマッシュは少し驚いた顔をして、すぐに唇に笑みを湛えて頷いた。 「……うん」 マッシュがリボンを受け取ろうと手を伸ばした時、ふいにエドガーがするりとそのリボンを手元に引いてしまう。空振りしてきょとんとするマッシュの頸に素早くリボンをかけたエドガーは、両手でリボンの先端を引っ張りマッシュの顔を引き寄せた。 驚きに開いた唇がエドガーのキスで塞がれる。 ちゅ、と小さな音を立てて熱が離れ、頬を仄かに染めたマッシュの目の前でエドガーが花の様に艶やかな微笑みを見せた。 「女神アテナにも劣らないだろう?」 「……とんでもない軍神がついたみたいだ」 はにかんで笑うマッシュは首にかけられたリボンを引き抜き、握り締めてエドガーに掲げる。 「必ず戻るよ、兄貴」 「ああ、待っているぞ」 愛する人の声を背にマッシュはいざ戦いへその身を投じる。 負けるはずがない。この体を流れる血と同じ血を持つ愛しい人が、俺の帰りを待っているのだから。 いってくるよ。兄貴。誰よりも大切な俺の半身。 |