休憩時間に中庭で女官たちがお喋りに花を咲かせていた昼下がり。 「あらっいらしたわ」 「私の髪乱れてないかしら?」 「シッ、お静かに」 女官たちが淑やかに畏まったその場所へ、ベビーカーを押す穏やかな表情のフィガロ国王エドガーと、その王弟マッシュが姿を現した。女官たちは恭しく頭を下げる。 「やあレディたち、花が霞むような美しい顔触れでどんな素敵な内緒話をしていたのかな」 「まあ陛下ったら。レグルス様もご機嫌麗しく」 「君達のような美しい女性に出逢えてこの子も目の保養になるだろう」 女官たちはベビーカーを覗き込み、その中で薔薇色の頬があどけない赤ん坊の青い瞳を認めてうっとりと目を蕩かせた。 「なんてお可愛らしいんでしょう」 「陛下そっくりですわ」 「ふふ、そうだろう? この子が相手では流石の私も分が悪いな、人気を独り占めされてしまう」 女官たちと一緒になって笑うエドガーの隣でマッシュが苦笑いを見せる。ふいに大人たちの中央で、ふえ、と頼りない泣き声が漏れ、女官たちは慌ててそわそわとエドガーを伺った。 エドガーは動じることなくベビーカーの中に手を差し伸べ、小さな体を抱き上げて優しく腕に収める。赤ん坊のふにゃふにゃとした泣き声が止み、顔の皺が消えて安らかな寝顔に変わった。 エドガーの手慣れた様子に女官たちはほうっと息を吐き、では失礼と去っていく父子と空のベビーカーを押すマッシュの背中を見送る。 「素敵ねえ、すっかりお父上のお顔になられて」 「本当に……お相手は誰なのかしら」 「陛下に愛されてお幸せだったでしょうね……」 再び女官たちは溜息をつき、その中の一人が頬を染めてぽつりと呟いた。 「いつもお傍にいらっしゃるマシアス様も素敵ですわね……」 「まあ、ひょっとして玉の輿狙ってらっしゃる」 「そ、そんな恐れ多い……!」 中庭から離れた場所でマッシュは大きなくしゃみをし、エドガーが揶揄うように笑った。 「さっきのレディたちが噂でもしているかな? お前のパパはモテるねえ」 「こ、声が大きいよ、兄貴……」 ふふ、と花も綻ぶ微笑を見せたエドガーは、さも愛しそうに赤ん坊の頭に頬を寄せた。 |