息を殺して忍び込んだ室内の奥、天蓋付きのベッドですやすや寝息を立てる幼い子供の枕元に細心の注意を払ってそっと置かれた箱は、クリスマスツリーやベルが描かれた包装紙に包まれて赤と緑のリボンがかけられていた。
 箱から手を離して数十秒、子供が動かないかを慎重に確かめたマッシュは、同じく戸口で気配を殺して様子を見守っているエドガーに振り向き、無言で頷く。エドガーもまた頷き返し、それが合図になってマッシュは再び忍び足でベッドから離れ、エドガーの元に戻って来た。
 後は音を立てないように扉を閉めて、しばらく戸の前で中の様子に変化がないことを注視し、異常がなければ──終わり。エドガーとマッシュは顔を見合わせてホッとしたように苦笑いを零す。
 自分たちの部屋に戻る道すがら、ぽつぽつと言葉を交わすとようやく緊張が解れたように二人の表情が柔らかくなった。
「しかしあんなオモチャみたいな模型の飛空艇で本当に良かったのか? 俺が作ればもっと精巧に……」
「城下の子供達の間で流行ってるらしいぜ。子供なんだ、オモチャでいいだろ。兄貴が作ったら他の子たちから浮いちまうよ、それにすぐバレる」
 そうか? とまだ納得し切れていないエドガーだったが、二人の寝室に戻ってきた頃には任務を終えた満足感でにこやかな笑みを浮かべていた。
「しかし疲れるものだな、サンタの真似事は」
「俺たちが子供の頃って親父がプレゼント置いてたのかな?」
「ばあやだったかもな。ふふ、幾つの時だった? お前、チョコボのぬいぐるみを頼んだのにナッツイーターが入ってて大泣きしたよな」
「そ、そんな昔のこと忘れてくれよ……」
 眉を下げたマッシュは軽やかに笑うエドガーを赤い頬で睨みつけた。エドガーはひとしきり笑ってからふうっと息をつくと、ふいに瞼を微かに伏せて艶を含んだ流し目をマッシュに投げた。
 視線を受けて息を呑んだマッシュに近づき、首に腕を回したエドガーが顔を寄せて耳元で囁く。
「じゃあ、そろそろ大人の時間……かな?」
 ごくりと喉を鳴らしたマッシュが小さく頷き、エドガーのこめかみから髪に指を差し入れて薄く開いた唇に自らの唇を合わせようと顔を傾けた瞬間、トントントン、とリズミカルに扉を叩く音がした。
 思わず二人は眉を寄せて時計を見上げ、再び顔を見合わせる。こんな夜更けの来訪者だなんて、何か城に緊急事態でも──
「……うえ、……さま」
 ドアの向こうから聞こえてくる小さな声を拾ったエドガーとマッシュはハッとして、急いで戸口に駆け寄った。
 そっとドアを開くと、二人の腹の高さよりまだ少し低い背丈の息子が、先ほどマッシュが枕元に置いたプレゼントを抱えて立っていた。当然ベッドに入っていた寝衣のままで、裸足の足を見たエドガーが驚いて膝をつく。
「どうしたレグルス、こんな夜中に。裸足じゃないか、そんな格好で……」
「ちちうえ、とうさま、いらしたのです!」
「え?」
「サンタさま……」
 腕に余る大きな箱をぎゅっと抱き締めるレグルスを前に、エドガーもマッシュも相好を崩して息子を寒い廊下から暖かい部屋に招き入れる。
 真夜中にすっかり興奮して二人の目の前で包みを開くレグルスを見守りながら、エドガーとマッシュは目を合わせて苦笑した。
 どうやら大人の時間はお預けらしい──玩具の飛空艇を手に目を輝かせたレグルスはやがて瞼を擦り始めた。うとうとと船を漕ぎ出した小さな身体をベッドに下ろし、その頭上で軽いキスを交わしたエドガーとマッシュは、息子を間に挟み眠りについた。

(2017.12.25)

閉じますよ